「三郎信康」ふたたび(01/8/26)


2年前の「面白かったもの」のコーナーで一度書かせてもらった、浜松市民オペラ「三郎信康」が改定再演されたので、その演奏会に行ってまいりました。一度だけではもったいない、と思っていたこの企画ですから、2年を経て再演されたことはとても良かったことだと思います。この作品が単なる一発の村おこし的オペラにはさせないという関係者の想いが伝わってくるようです。
さて、この作品の全体的な印象は、前回と大きく変わったわけではありません。総じて、内容、台本がしっかりしているため、オペラとして充分楽しめる作品に仕上がっています。また、大仕掛けなセット、ダイナミックな舞台転換など浜松アクトシティのホールをフルに生かした演出も前回同様素晴らしいものでした。
今回は、改訂再演ということで、前回と多少違った部分があります。私にもわかる一番大きな点は、第一幕の前に、信康とみのの出会いの場面が追加されたこと。また、この場面で織田信長が現われます(もっとも、配役は与えられず、男声合唱で表現されています。これは第2幕で信長からの手紙の内容が男声合唱で表現されることをより強調するためのものでしょうか)。
あとは微妙にセリフや内容が追加されているようですが、さすがに前回の公演は2年前ですからどこが追加されたか自信を持っては言えません。そういう意味では、改定といってもそれほど全体のイメージを変えるほど大きくは変わっていないようです。
なお、今回は舞台の両側に字幕が設置されました。おかげで全てのセリフを知ることができ、このオペラの全体像をより把握しやすくなりました。多分、前回の公演で言葉が聞き取れない、といった意見がいろいろあったのではと推察します。確かに、字幕により内容は完全にわかるようになったのですが、日本人演奏家が日本語で歌い、日本人の観客がそれを聞くのに字幕を使うというのは、やはりちょっとおかしいことのように思うのです。現実論としてやむを得ないとしても、邦人オペラのあり方の問題点の一端を示しているような気がします。

さて、今回は曲についてもう少し書かせてもらいましょう。
作曲は二橋潤一氏。浜松の高校から芸大を出て、パリ国立音楽院に留学したというバリバリのエリート作曲家としての経歴を持ちます。その経歴に違わず、音楽全体はいささかも緩みを感じさせない、センスの良い響きだったと思います。イメージ的にはやはりドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」がぴったり(私自身、オペラに詳しくないので自分の知っている範囲でということで)。これにうまく、日本的なわらべ唄のメロディや、祭りの雰囲気を重ねています。
確かに、めちゃめちゃ現代的でなく、フランス風の雰囲気に仕上げられたこの音楽は個人的には非常に好感を持つのですが、では一般の観客にとってはどうだったでしょうか?全体的に、明確なメロディやビート感がなく、延々と切れ目のない音楽が続くこの感じは、イタリアオペラを聞きなれている人にはかなり耳慣れないものだと思います。もちろん、どこまでわかりやすく書くかというのは現代作曲家にとって難しい問題ではあるのですが、そういった課題に対して、もう少し果敢に踏み込むべき余地はあったのではないでしょうか。
例えば、以前見た三枝成章のオペラでは、ジャズバンドのような音楽が混じったりするなど、もっと現代的感覚を持っていたように思います。まあ、このあたり賛否両論あるかとは思いますが、台本作者が徹底したエンターテインメントを求めているのだから、もう少し開き直ったらいいのになあ、なんて感じました。
もう一つ気になったのは、音楽がいささか鳴りすぎているということです。オケは3管近い立派な編成で、このオケでフルボリュームで演奏されたら地方声楽家はもちろん、合唱団でさえ対抗は出来ません。全体的に、オケが鳴りすぎて歌が聞き取りにくかったり、歌をかき消してしまっているところが散見されました。盛り上がる部分も少し頻繁すぎて、ここ一発の盛り上がりが逆に伝わらない結果を生んでいます。個人的には、もっと小編成のオーケストラにするか、あるいは歌の部分ではもっとオケを薄くすること、派手な盛り上がりはここ一番のためにもう少し取っておくこと、といったあたりが曲に対する不満として残りました。
もっとも、私のような者がえらそうなことをいくら言っても、二橋氏の作曲家としての力量は大したものだと思っています。今後とももっともっと活躍して欲しいものですね。



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