合唱コンクール全国大会を聴きに広島へ(99/11/22)


今年のJCA合唱コンクール全国大会が広島で開催されました。私にとっても、今回は特別な意味を持った大会だったので、多いに期待して広島に向かいました。
昨年は、朝日賞の表彰式があったので大会が開催された福岡までの交通費、及び宿泊費は合唱連盟から頂けてちょっぴり優越感を持って行くことができましたが、今年はもちろん招待状だけ。今回は広島まで妻も同行したので、二人分の交通費、宿泊費で結構な出費になってしまいました。妻のチケットも正規の方法で入手したし(招待状で二人入れればいいのにねえ<-自分勝手な意見)。
どうせ行くなら、広島観光も充分楽しもうと思い、ホテルは3泊分予約しました。本当は、今日まで広島で観光している予定だったのですが、妻の身内に不幸があり、昨夜中に帰宅するはめに。残念ながら、観光の方はほとんどできず。ただ、せっかく広島に来たのだからと、二日目の職場の部の前半を聞くのをブッチして^^;、原爆ドーム周辺の散策と、平和記念資料館を見て回りました。よく、8月6日にテレビで見ることができるおなじみの場所を、自分の目で確かめることができました。この周辺からは、原爆の体験を風化させてはいけない、というオーラがひしひしと伝わってくるような感じです。驚いたのは、平和記念資料館の入場料が大人50円!中の展示物は常に更新され内容もケアされているようですから、この安さは破格です。私が行ったのは日曜日の午前中ですが、たくさんの人が資料館に来ていました。外国人も結構多かった。世界平和のシンボルのような場所ですから入場料も戦略的であるのかもしれないけど、いまなお多くの人が広島の原爆投下に関心を持ち、ここに訪れる人が絶えないことの証なのかなあ、などと考えていました。
それではトピック毎に分けて、今回の全国大会のことについて書いてみましょう。

●ついに、詩人の矢川澄子さんとお会いできた!
矢川さんとは広島で会いましょうということで、それまでに電話や手紙などで連絡をしていました。私たちが先に予約しておいた安ホテル^^;に矢川さんも泊まることになり、ちょっと恐縮。金曜日の夜、ホテルに着いてから早速矢川さんに連絡。その晩に夕食をご一緒しました。矢川さんは昭和一桁生まれだそうですからお年もかなり召されているのですが、本当に元気でかくしゃくとされていました。実は広島に来る前も山口県を観光、そして広島も充分観光された後、神戸の知り合いのところに行くのだそうです。外国にも随分たくさん行かれているようで、いろいろな場所に出歩くことがとても慣れているように思えました。出不精の私にはとても真似できません。一人旅ですから、荷物を運んだりすることも大変だと思うのですがね。
矢川さんとは大会の間もずっと一緒に演奏を聞いていたりして、いろいろな話をしました。
矢川さん自身が女学生の頃、コーラスをやっていたということで、その頃の話なども聞かせていただきました。そういえば、大学の部で「美しき青きドナウ」を歌った団体があって、私の感覚からすれば、間違って全国大会に迷い込んできてしまった(関係者の方スイマセン、本心ですが^^;)ような団体でしたが、この堀内敬三作詩ものは矢川さんがコーラスをやっていた当時は随分流行ったものだそうで、こんなところで聞けるとは思ってませんでした、とおっしゃっていました。
矢川さんは、ファンタジーノベル賞の審査員をずっとされているのですが、ファンタジーノベル賞といえば、鈴木光司を思い出したので、そんな話もちょっと盛り上がりました。私も氏の「楽園」という本が非常に好きだったのです(「最近おもしろかったもの」参照)。あの人は大賞を取ったわけではないけれど、本当にあれからのびましたねえ、と言われ、今では一緒にファンタジーノベル賞の審査員をされているとか。その他の文学ネタについてはボロが出るので、あんまり話しはしませんでしたけど^^;。
矢川さんは小柄な人でしたが、その世代の人とは思えないようなおしゃれもしていましたし、やはり一流の文化人らしいオーラを感じました。また、気さくでいろいろな話をしてくださり、とても楽しい時間を過ごせました。良かったら、長野の私のうちにも遊びにいらしてください、などと誘われましたので、折りをみてぜひ伺いたいと思っています。

●「だるまさんがころんだ」を6団体が演奏!
私が把握していた分では「だるまさん」を歌うのは4団体知っていましたが、全国大会の場で新たに大学の部で歌ってくれるところを発見。本当に嬉しい限りです。全国大会でのだるまさん演奏団体は以下のとおり。
山口大学混声合唱団(山口県、中国代表、大学B)
東北福祉大学混声合唱団(宮城県、東北代表、大学B)
流通経済大学合唱団(茨城県、関東代表、大学A)
会津混声合唱団(福島県、東北代表、一般A)
コール・ゆうぶんげん(岡山県、中国代表、一般A)
大久保混声合唱団(東京都、東京代表、一般B)

やっぱり聞いて思ったんですけど、この曲は難しい!特に冒頭の変拍子の部分は、ほんとに苦労しているのがわかりました。自分で作っておいて今更何を言っているのか、とお思いでしょうが、練習を重ねればきっと何とかなるよなあ、なんて漠然と思っていたのです。でも、実際にはリズムを立てればピッチが合わず、ピッチを合わせればリズムが合わず、って感じだったように思います。
特に大学の部の「だるまさん」はソルフェージュ的にちょっとつらい部分があったのは確かです。その中では流通経済大学が頭一つ完成度の高さを感じさせてくれました。
一般の部は、全体的なレベルの高さもあり、どの団体も安心して聞けました。内容としては三者三様で、会津混声さんはビート感がきいた音楽の中にも人生の年輪を感じさせる深みが感じられ、コール・ゆうぶんげんさんの演奏では、パワー溢れる若々しさと音楽的な工夫が随所に感じられました。また、大御所、大久保混声さんの演奏は、ゆったりした懐の深いだるまさんで、もっとも安定度の高かった演奏だったかもしれません。
何はともあれ、この全国大会で多くの団体が歌ってくれたこと、また各地方大会にてもさらにたくさんの団体が取り上げてくれたであろうことを思うと、未だに何か信じられない気分ですし、心から嬉しく感じています。全国の「だるまさん」を選択された皆様、本当にありがとうございました。
全国大会では、同じくだるまさんを取り上げて下さった熊本の合唱団からたちの方ともお会いできて驚きました。また、焼酎をいただいてしまいました。
ちなみに、20日の夜は、コール・ゆうぶんげんさんのお招きで私の妻、そして矢川さん共々、打ち上げにお邪魔してまいりました。コール・ゆうぶんげんさんは(残念ながら?)銀賞でしたが、非常に若い団体でこれから前途洋々な団体だと思っています。実は私の年齢でも、コール・ゆうぶんげん内では最年長に近い年齢らしいです。打ち上げでは本当に楽しませていただきました。どうもご馳走様です。(^_^)

●全国大会で演奏されていた曲について
関東大会に比べると、内容的にはバラエティに富んでいたように思います。
また、今年はプーランクイヤーということで、何団体かがプーランクを取り上げていました。その中でも圧倒的に多かったのが、「クリスマスのための4つのモテット」。実は、某団体でこの曲を練習している最中だったので、いろいろな点が気になりました。特にプーランクのやや細切れ的なフレーズをどのように処理するかによってプーランクの曲の切れのよさが変ってくるように感じます。モテットとはいえ、不必要にレガートで処理するのは個人的にはいただけませんでした。
今回聞けた曲の中でもっとも印象的なものはトルミスの「大波の魔術」という曲です。今回の全国大会では男声が全部で5団体参加していたのですが、なんとそのうちの3団体がこの曲を自由曲に選択。今年は全国的に一気に流行ったということなのでしょうか。私は残念ながら初めてこの曲を知りましたけど。
第一印象は「かっこいいー!」って感じ。トルミスのCDを聞くにつけ、簡潔ながらも力強く深い印象を持っていたのですが、今回の曲もその例に漏れず本当に心に深く残りました。曲中での無声音や口笛も非常に効果的です。
そしてなんとこの曲を演奏した全ての団体が金賞。これははっきりいって圧倒的に曲の魅力が影響したと思っています(もちろん、演奏も十分良かったんですけど)。来年以降の男声合唱団のレパに急速に入り込むのではないでしょうか。歌詞がラテン語というのも合唱人にとっては取り上げやすい。実は楽譜もゲットしたのですが、音も比較的簡単だと思います。個人的には一度どっかでやってみたい(ただし、30人くらいは人数がいるけど)。
邦人曲では、豊中混声、合唱団あるが、最近活躍している作曲家の最新の曲を披露。いずれも内容的にシリアス&ヘビーで言葉の強さをそのまま曲にストレートに表わした感じ、ホモフォニック中心で音楽的にはむしろ淡白に感じられました。演奏者が気持ちを込めやすい反面、場合によっては聞く方がひいてしまうこともあるような気がします。もう一つ、自分にはピンと来ない曲だったといわざるを得ません。

●金賞のインフレーション
一般の部ではAグループが15団体中、金賞7団体。Bグループが同じく15団体中、金賞8団体。
これだけ聞くと、ちょっと金賞を乱発し過ぎではないかと思います。
しかし、これは確かに難しい選択です。私も聞いてみて思ったのですが、どの団体もそれぞれ特色があり、またジャンルや表現の方向性が違うわけです。そのとき、発声が少しくらい良くなくても、それを逆に武器にしてしまうような選曲だってありだと思うし、また人数に任せて音量音圧で勝負するのだってありだと思うのです。
そう思うと、どれも捨て難いなあ、と思った全ての団体が金賞になっていた、というのが率直な感想です。特に一般の部は各団体がさまざまな個性を持っており、各指導者もそれを理解しその部分をさらに伸ばすような音楽作りをしてきています。コンクールだから順位をつける、ということさえ忘れることができれば、なんとも幸せな合唱の多面性を楽しむことができた空間であったということができるでしょう。
個人的には、会津混声、日立製作所の演奏に非常に好印象を感じました。妻はカントゥスアニメのアリアンナが良かった、と言っていました。
Juriは関東大会でも聞きましたが、技術的な部分を評価することに徹するならば、全く桁外れにすごかったというしかありません。

●気になること
以下はきわめて個人的な意見で、ちょっと言うのも慎重にならなければいけませんが、やはり気になるので書きたいのです。
多分ほとんどの人は、全然気にすることのない、むしろ場合によっては賞賛してはばからないことだろうと思います。
というのは、ちょっとナルシスティックで表現過多な指揮者が多すぎるのではないか、ということです。というと、あんまりいい書き方ではないですが、見た目には引き付けるものがあるし、歌い手もそれを期待している部分もあるのでしょう。特に昨今活躍しているカリスマ系指揮者はいずれも個性的な指揮表現と、芸術世界を持っており、それに感銘を受けている人が多いことも確かです。
ただ、それが過剰なまでの緊迫感の演出を作り出したり、指揮表現のダイナミクスが異常に膨らんでいることが、どこか指揮者自身の自己顕示欲とリンクしてしまい、各演奏者の自発的な演奏意欲をのばすことを忘れさせてしまっているのではないか、と心配になるのです。全ての団員がカリスマ指揮者に向かって、その棒に徹底的に食らいついている様が、果たして本当のアンサンブルと言えるのか?少し疑問に思ったのです。無論、しょせんアマチュアの世界ですから、精神的支柱を持った心強さが音楽表現に大きく影響していることは否めませんが、プロもアマも無い純粋な音楽の美しさを求めようと思ったら、心まで指揮者に授ける必要はないと私は思うのですが...
もう一つ、上のように団員が絶対的に指揮者を信仰しているのが伝わるところならまだしも、決してそうは思えない団体なのに、指揮者だけが妙にナルシスティックな表現をしているように感じられるときがあります。気分はカリスマ指揮者、かもしれないけど、やはり指揮の基本は、なるべく不必要な動きをしないことだと思うのです。
指揮者については、また折りを見ていろいろなことを考えて、そして書いてみたいと思っていますが、今私の思っていることがもしかしたら他の人の考えていることと逆なのかなと、最近は密かに恐れています。


というわけで、今年の合唱コンクールはこれで終わりました。
私にとっても、多分一生思い出に残るコンクールになったと思います。何はともあれ、全国大会に参加した皆様お疲れ様、そしてありがとうございます。課題曲を通していろいろお世話になりました合唱連盟の皆様にも御礼申し上げます。



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