正しいピッチで歌うには(04/10/17)


合唱の技術的な話としてピッチに関してはいろいろ書いてきたりしましたが、こういったストレートな問いはこれまでの談話ではなかったように思います。
正しいピッチで歌う方法があれば、まあ、すでにみんなやっているわけで、そんな解決方法がないからこそ、いろいろ悩むわけです。最近は、少人数のアカペラ合唱をやる団体も増えてきて、かなりの団体がピッチの問題を抱えていると思いますし、コンクールの批評などでもピッチの指摘を書かれることは多いでしょう。

私とても偉そうに書ける分際じゃありません。
指揮をしているときは、ピッチが悪いと言うことは出来ます。でも誰に対してどう指示すべきかは悩むものです。逆に自分が歌っている立場になると、ただ聞いているときよりは絶対に気付きにくくなります。別のことに気を取られて歌っていると、今度はピッチが悪くなってしまうという感じで、同時に複数のことを考えながら歌うのは難しいものです。それもたいていの場合、自分が歌っているときは自分では気付かず、人からピッチが悪いと指摘を受けたとき、指摘そのものが怪しい場合もあって^^;、実際のところどうすべきなのか自分でも良くわからないのです。
つまり、ピッチというのは本来極めて確かな定義がある物理量であるにもかかわらず、実際の練習の場では、そのような明確な基準で指摘されたり、的確な手順で修正されているとは思えない実態があるわけです。今、低いと思ったパートに対して、指揮者が「低い」と言うだけの練習なら、恐らく合唱団のピッチは良くはならないでしょう。

他人の演奏に対して「ピッチが悪い」とか「ハモっていない」というのは、厳密な意味において、全て正しい指摘になってしまうわけで、ついつい誰でも言いたくなってしまう便利な批評言葉です。しかし、実際、ピッチが悪いと感じる評価基準そのものが人によって様々で、なかなか額面どおり受け取っていいものかどうか難しい場合もあります。
私の考えるに、微妙なピッチの問題は音色の問題も大きいと思うのです。ピッチが悪いことが気になる音色というのがあります。言葉を変えれば、ピッチが悪いと思われやすい音色です。むろん、平べったく声楽的でない発声はそういう音色の代表格ですが、鋭く固い音色であるほど、ピッチ的な指摘を受けやすい(もちろん発声の指摘も受けやすい)音色なのでしょう。かといって、輪郭をぼかすような音色は、最終的には少人数合唱団に必ずしもいい音楽をもたらしません。
あとは、呼吸の問題。ブレスの安定度。音程は正しそうでも、息の量にムラがあると、どうしても歌声は不安定に聞こえます。不安定な歌い声は、それだけでピッチが悪いと指摘されやすくなります。
そういう意味では、ピッチに対して、ピッチそのものを直そうとするより、本質的には音色、呼吸といったような発声技術を整えていくことが必要だと思われます。ピッチが悪くなりそうな箇所というのは、割と一般化出来ます。例えば同じ音が続く箇所とか、開口系母音に変わったときとか、ピッチの跳躍が大きいときなどが挙げられます。そういう一般ルールを知るだけでも、多少意識して歌うことができるようになるかもしれません。
まあ、そうはいっても一般合唱団でそこまで通常練習の中でやることは実際難しいし、ボイトレ自体が定義された体系をなかなか持っていないという現実もあり、ますます練習の進め方に対する悩みは深まります。

実際のところ、ピッチの問題は音楽のあらゆる様相に関わっていて、やはり単純ではないのだと感じます。
つまるところ、ピッチの良し悪しは歌い手個人個人の耳の良さに依存してしまうのですが、耳の良さは音楽経験だけで培われるものではありません。知識や文化的背景によっても、ピッチを感じる精度は変わります。例えば、ある程度和声の知識があれば、今歌っている和音が何なのか、自分が和音の第何音を歌っているのか、それを知るだけでも和音精度を上げる手がかりがつかめます。ただし、和声知識は指揮者であってもかなり怪しいので、なかなか望むべくもありません。同様に、純正の和音に関する知識や音律の知識なども多少の参考にはなるはずです。
もう一つは、音楽が聴衆に与える効果、というのをどれだけ読みきれるか、という点も重要です。テンポが速く、音符が細かい音楽では、ピッチ精度は低くなりますが、聴衆の判断できる精度も悪くなります。だから、ことさらにそういう箇所のピッチを一生懸命練習するのは効果的とは思えません。逆に、一つの和音が比較的長く聞こえる場所こそ、きっちりと和音合わせをする必要があります。もちろん、そこだけ練習して出来ても、流れの中でやらないと意味がない場合というのもあるので、どのように細切れにして練習するかは指揮者のセンスが問われますが。
そういう練習の中で、誰が何を気をつければピッチが良くなるのか、的確な指摘とはどういうものなのか、またいろいろ考えてみたいと思います。



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