最高!ラヴェル・ピアノトリオ(03/6/21)


私が室内楽で最も好きな曲はと聞かれたら、ラヴェルのピアノトリオと答えます。ちなみに、私の携帯の着メロは、ラヴェルのピアノトリオの冒頭部分を入れてます。(^^)
とはいえ、なかなか浜松に住んでいると、この曲を実演で聴く機会はそう多くはないのですが、昨日初めてこの曲を実演で聴くことが出来ました。浜松アクトシティで行われた「エスプリ漂う、フランス音楽の旅へ」と題されたコンサートで、ピアノ:藤井一興、ヴァイオリン:漆原啓子、チェロ:長谷川陽子による演奏は、この曲の面白さを十二分に堪能できるものでした。

もっとも、藤井さんのトークによると、彼自身この曲を何十回と弾いているようで、演奏会の題目としてはそれほどマイナーなものではないのかもしれません。メロディもきれいだし、何しろ見るものを楽しませる派手な部分も多く、この曲を知らない一般リスナーにとっても恐らく非常に印象に残る音楽であることに違いありません。これは、まさに音楽のツボを心得たラヴェルの天才性ゆえだからと思うのです。

第一楽章は、冒頭から非常に印象的なメロディが現れます。これが第一主題となります。そのあと、第二主題がヴァイオリンからチェロと引き継がれていく様子もまた美しい。この楽章は、少し崩れたソナタ形式のようになっていて、その二つの主題はそれほど性格が異なっているわけではないのですが、第一主題がリズム性を若干持っているのに比べ、第二主題は牧歌的でレガートな旋律となっています。展開部はほとんどなく、第一主題を各楽器が交互になぞって盛り上がったあと、第二主題の再現が始まります。コーダは一見展開部の入りのような様子を見せますが、そのまま静かに第一楽章を終えます。この楽章の魅力は、第一主題が楽章全体に様々な形でちりばめられ、楽章全体の統一を取っていて、それが何かしら物悲しい雰囲気を非常にうまく醸し出している点にあると思います。
第二楽章はスケルツィオ的な楽章。複数の主題が絡み合ってスピーディに展開する爽快な音楽です。この楽章は、恐らくCDよりも圧倒的に実演が楽しいのです。アップテンポの中で、レガートとスタッカート、瞬間的なピッチカート、ピアノのグリッサンドなどが目まぐるしく展開され、自然と演奏者の反応も激しくなっていきます。視覚的に非常に楽しめ、この楽章が終わった瞬間に思わず拍手をしたくなってしまいます。
第三楽章は打って変わって、非常に遅く息の長い旋律が各楽器に交互に演奏されます。こういう泣きのメロディはやはり弦楽器の独壇場。楽章はピアノから始まりますが、チェロ、ヴァイオリンと引き渡されるに従い、情感がだんだん高まって音楽の世界に没入させられます。ひとしきり盛り上がったあと、ピアノだけになり、そのあと弦楽器だけになります。トリオの中に突然現れた弦楽器だけのこの数小節がまたこの楽章の雰囲気をうまく作っています。
第四楽章は、第三楽章からアタッカで続きます。前楽章の寂しい感じから、急に華やかで楽しげな旋律が奏でられます。しかし、それらの旋律は基本的に5拍子、あるいは7拍子基調の単純にビートが進まない雰囲気を持っています。この楽章はほぼ全体が盛り上がりまくり。最後の弦楽器はひたすらトレモロの連続で、この盛り上がりを演出していき、圧倒的な華やかさの中でこの曲は終わります。

作曲する人の中にも、ラヴェルを好きな人は結構多いように思います。旋律の持つ叙情性と、現代音楽の一歩手前とも言える圧倒的な音組織の構築が高次元で織り成されていて、どう分析してもため息の出るような和声展開、書法の確かさの連続なのです。この感覚は、恐らく作曲の秘密を暴こうとしてラヴェルの曲に対峙した人でないとわからないのかもしれません。
ラヴェルが音を構築する人たちの支持を熱烈に得る反面、世間一般で有名な音楽は「亡き王女のためのパヴァーヌ」とか「ボレロ」であり、どちらかというとラヴェルの曲の中では中心的な位置を占めたものではないような気がします。
私の思うに、ラヴェルの音楽は息の長い旋律が少なく、どちらかというと1,2小節単位の動機(モチーフ)から音楽が成り立つことが多いのです。印象的で美しいのだけど、あとで記憶に残るような口ずさめるメロディが少ないのが、一般にそれほど浸透していない理由ではないでしょうか。もちろん、近代以降の作曲家は誰も似たような傾向はあるのですが、その音楽の美しさ、完璧さにもっともっと多くの人が振り向いて欲しいものです。(まあ、ある意味十分振り向かれているとは言えますが^^;)



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