全国大会を聴きに行った(02/11/25)


週末、琵琶湖ホールで行われた合唱コンクール、大学、職場、一般の部の全国大会を見に行ってきました。2日間の演奏を全部聴くというとんでもない荒行を果たしてきました。全国大会は3年前の「だるまさん」のときに聴きにいって以来で、ここのところ浜松からは遠い開催地だったのですが、今年は琵琶湖ということでちょっと足を延ばせば行けそうだったので、聴いてみることにしたのです。
出場は全部で55団体で、聴いているときにはいろいろ思ったものの、さすがに全ての演奏について感想を言えるほどは覚えていられませんので、記憶に残っている演奏・トピックを中心に感想など書いてみたいと思います。

まず課題曲について。
今年はかなりまんべんなくいろいろな曲が選ばれていると思いました。そういう意味では、うまくニーズに合った課題曲の選曲だったのかもしれませんが、何度も聞いていると曲そのものの良し悪しも逆に際立ってしまいます。例えば、G3は渋いアカペラ指向の団体が多く取り上げていましたが、私にはどうもこの曲の面白さを感じることができませんでした。
ところが、当初楽譜を見たときは、ちょっとファンシーでそれほど好印象でなかった公募作品のG4が、妙に心に残る気持ちの良い音楽に感じられてきました。5/8の割り切れない面白さが、曲の軽いノリと微妙な断層を成していて、シンプルな和声ながら非常に計算高く気持ち良さが作り出されているように思えます。全体的になんだかとても洗練されているのです。こういう気持ちよさを忘れちゃいけないなあ、と感じさせた曲でした。

では、好印象の団体とその感想など
●同志社混声合唱団こまくさ
自由曲は、いまどき・・・という選曲なのかもしれませんが、こういう曲をしっかり演奏することってやはり難しいのではないでしょうか。合唱にのめり込むほど、日本人の心を揺さぶるようなものをシャットアウトしてしまうような傾向を感じる中で、正面からこういう曲を選び、そして日本語を伝えるということを徹底していたという意味で大変好感が持てました。本来、歌で何かを伝えるなら、演劇などと同様少しクサいぐらいでないといけないのです。
私自身はあまり中田作品に触れたことがないのですが、時折聴くにつれ、実はすごい作曲家なのではと思います。

●富山大学合唱団
ちょっと線が細いものの、実に繊細で、隅々まで意識の行き届いた演奏だったように感じました。全体的にシンプルなアカペラ曲を歌っていて、ハーモニーがとても良く気持ちの良い演奏でした。各パートも声が揃っており、また指揮者の音楽的センスも感じられます。

●すごい!一般A
最終的には一般Aの部だけが演奏の完成度の高さという点で圧倒的に他の部門を凌駕していたと思います。
そして、その中にはやはりトレンドリーダーとも言うべき団体がいくつか存在しているのです。松下氏率いるVOX GAUDIOSA, Brilliant Harmony は関東大会でも聴きましたが、やはりその実力の高さは圧倒的。それから向井氏率いるESTも、今年は宝塚で一度拝聴させて頂いていますが、今回はAグループMAXの32人で登場。あの聴いているだけで楽しくなる「すずめ」もう一度楽しませてもらいました。
同じく、宝塚で名前が目立っていた奈良のクールシェンヌも気持ちよい作品・演奏を聴かせてくれました。
賛否両論はあるかと思いますが、あるレベルをクリアしてしまった合唱団が、ステージとして人を楽しませるエンターテインメント性を持ち出すようになるのは悪いことではないと思います(度を越さなければ)。確かに、コンクールという場ではあるのですが、演奏することの根底には常に観客に対して何かを伝えようとする意思が必要です。
それに対して、団員自身も消化しきれないように見える現代曲の演奏は聴いているのもつらいのです。

●日立製作所
関東大会ではたいてい舞台裏で聞いてます。ここがある限り、YAMAHA Chamber Choirは全国に行けないわけですが^^;、でもこれだけの演奏をされたらたまりません。こまくさと同様、日本語の表現にこだわった非常に完成度の高い演奏だったと思います。この演奏は、やはり日々の練習の賜物ではないでしょうか。翻って私たちは・・・・+_+
疑問があるとすれば選曲でしょうか。この合唱団は毎年ピアノ伴奏付きの新実作品ばかり。これは一つのこだわりなのでしょうが、ちょっと不健康な気もします。でも広く歌われている作品だからこそ(逆説的ですが)、これだけの演奏はあまりお目にかかれません。作曲家が聞いていたら泣いて喜ぶんじゃないでしょうか。
私的には職場の部で一番良かったです。

●Gaia Philharmonic Choir
初めて聴きました。すごいです。この演奏はもはや事件ではないかとさえ思いました。
第一声からして、他の団とは別次元の鳴りの良さと正確さを兼ね備えていることがわかります。この圧倒的な合唱団の性能を駆使して、松下氏は自由曲ではこれでもかというくらい「泣き」のAgnus Deiを繰り広げます。この曲が持つ劇性の過剰なまでの表現は、聴いているものを圧倒するのに十分でした。
全体的に今年の一般Bの各団体の演奏には、今ひとつ演奏の精度の低さを感じたのですが(もちろんずいぶん高いレベルの話です)、だからこそ余計に緻密かつダイナミックであるGaiaの演奏は、他の団体の一回りも二回りも違う次元にいたように感じます。
あのテンポで歌ったので、密かに時間オーバーになるかと不安でしたが、幸いそれはなかった模様。

●枝幸ジュニア合唱団
ここも演奏の精度の高さという意味で、一般Bの中で際立っていたように思います。
なかなか一般団体の中で、童声合唱団をどう評価していいのか迷うことが多いのですが、今回は迷うことなくすごいと思いました。ここまで声を揃えるのは相当な練習が必要だったものと推察します。
恐らく選曲も彼らの表現力にちょうどマッチしていたのだと思います。

●ひいき目だけど静岡合唱団
ヴォア・ヴェールの団員もなぜか参加していたり(あの〜練習日が同じ曜日なんですけど-_-;)、昨年お世話になった静大生の面々も参加しているなど、他人のような気がしない団体。もっとも私自身は静岡合唱団とは何の縁もないのですが、合唱コンクールでは県大会からおなじみです。
多くの団が現代の渋いアカペラ曲を演奏する中、ロマン派のバリバリのオケ付き(もちろんピア伴)ミサ曲ということで、トレンドからは外れているものの、この手の演奏でありがちなただ吼えるだけの演奏ではなかったのが良かった。全体のダイナミズムも心地よいものでした。辻先生がだいぶ痩せているのには驚きましたが、氏の指揮だからこそ、あそこまでまとまった演奏が出来たのではないかと思います。

ちらちらと書いていますが、全体的にはあまりに渋い選曲をしすぎて消化しきれていない団が多かったように感じます。というか、本心を言えば、一回聴いただけでは理解できないような曲は、どうしても聴く気が萎えます。私の勉強不足といえばそれまでですが、もっと気持ちの良いきれいな曲をたくさん聴きたかったのです。
あらためて名曲とは何か?と思わず問いたくなります。もちろん、聴けば聴くほど内容の深さが理解できるような曲もあるでしょう。でも、何度聴いてもただ難しいだけという曲もあるはずです。それを知ることのできる環境にいるのは、その曲を練習している人たちです。だからこそ、曲を見る目もコンクールでは試されて然るべきでしょう。
有名な作曲家だからって、つまらない曲はつまらない、と私と一緒に叫んでみましょうよ。

2日目の審査発表の直前、JR東海道本線が大津と京都の間で人身事故で不通になるという連絡が入りました。私は京都から新幹線(指定)で帰る予定だったので、大事をとって早めに帰ることに。その際、近場の京阪電鉄の駅まで全国大会の実行委員の方々が案内していただいたりして、大変助かりました。最後の最後に実行委員の方々には大変なことになりましたが、この全国大会はこういう方々がしっかり支えてくれていることで成り立っているということを、こんなところで実感したのでした。



inserted by FC2 system