NHKスペシャル「遺伝子」(99/5/6)


ゴールデンウイークに3夜連続で放送されたNHKスペシャル「遺伝子」を見ましたか?
非常に興味のある内容だったので、私はビデオ録画までしてしまいました。

内容は、第1夜がDNA内にある遺伝情報で体の中のいろいろな特質が決定される様子について、第2夜ががんになりやすい遺伝子情報の特定から、遺伝子によるがん治療の最前線について、そして第3夜は日本人のルーツを遺伝子から特定しようとする研究についてです。
遺伝子自体のしくみについてはそれほど新しいことが言われていたわけではありません。むしろ、現在における遺伝子研究とはその莫大な遺伝子情報(人間一人あたり60億対と言われています)の地図作りにあると言えます。
面白かったのは、遺伝子がいくつかのグループに分かれており、それらの情報を読むための鍵がないとそのグループの遺伝子を転写できない、というしくみとか、それらの鍵情報が書かれている遺伝子の存在があるということです。これはきわめてシステマチックなしくみですよね。ある意味で、コンピュータのプログラムの動作とのアナロジーを感じました。つまり、遺伝子情報とは、CD-ROMやその他のROMチップなどに書かれているプログラムと同等であり、それらが各細胞に収められていて、それぞれの細胞の核から必要なプログラムを転写して各細胞がCPUと同様に必要な動作(たんぱく質の作成)を行うということです。これは生物のいろいろな特質が、DNAという媒体の中の遺伝子というソフトウェアによって規定されている、と言うことができると思います。
実際、ショウジョウバエの実験では遺伝子の突然変異で、足が6本でなく8本あったり、羽が2枚でなく4枚あったりすることが起きています。これらはたった一つの遺伝子が間違った配列になっただけで起こるのです。このことは逆に積極的に遺伝子をいじることによってこの世にない生物を作り出すことができることを意味しています。

もう一つ興味深いのは、上でも出てきた突然変異というしくみです。第2夜ではガンに侵されやすい遺伝子を持った人が出てきました。これも突然変異だとすれば、必ずしも突然変異はその種にとって有益な変異だけが起こるのではないということになります。というより、受精して二つの遺伝情報が組み合わさる時に一定のエラー率があると言い換えることもできるでしょう。そして、その突然変異が生物を進化させるのなら、このエラー率を少なくする方向に生物が発展してはいない、ということになります。もちろん、遺伝子の数と突然変異の数を考えれば、エラー率というのは極めて小さい値だと思われますが、突然変異の種が環境に適応できるか判断できるのにちょうどよいくらいの数字なんでしょう。本当に巧妙なしくみで、いったい誰が考えたか不思議になりますね。

日本人のルーツも興味ある話でした。
これまでの学説では、日本はアイヌ、沖縄の人に代表されるような縄文人が元々住んでいたけれど、その後大陸から弥生人がやってきて縄文人を南北に追いやっていったということでした。しかし番組では、遺伝子的にはそのような単純な構造ではないという結論が語られていました。本州に住む人の遺伝子を調べると、韓国系と中国系で5割、アイヌ、沖縄系を合わせて1/4、というように様々な遺伝子のタイプがいるようなのです。韓国の人は、4割以上が同じタイプの遺伝子だということなので、こと遺伝子で見る限りは、日本人は遺伝子的には均一ではないということがわかりました。
また、アイヌと南米ペルー人の遺伝子がほとんど同じという興味深い事実も発見されています。北海道から地球の正反対にあるペルーまで、アラスカから北アメリカ大陸を通ってこの民族が移動してきたことを想像すると、本当に壮大な物語を感じますね。

遺伝子というミクロの世界に秘められた莫大な情報にロマンを感じながらも、この秘密を知ってしまった人間が次にどんなことを考えるのか、ちょっと空恐ろしくもあったりします。


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