知らなくていいこと、知りたくもないこと(02/5/11)


パソコンが普及して、いろいろなことが本当に便利に出来るようになりました。昔は専用の設備がなければ出来なかったことも、今ではパソコンと周辺機器が揃えば出来てしまうことも多いのです。しかし、それでは多くの人がそういった機能を利用してその恩恵を享受しているかというと、そうは思えません。ちゃんとやろうと思えば知らなきゃいけないことが多すぎて、たいていの場合めげてしまうのです。

いくつか具体的に挙げてみましょうか。
パソコンで出来るようになって嬉しいのは、CDが作れるようになったこと。これまでは音を録音しようと思ったら、テープ、MD、DATに取るしか手がありませんでしたが、誰でも持っている再生装置といったらやはりCDプレイヤーなわけで、それならCDを作れるようになるのが本当は一番嬉しいのです。恐らく、そういった潜在需要に火をつけたのか、今やどのパソコンにもCD-Rは当たり前。実際にCD-Rで焼かれたCDを手にすることも多くなりました。
その一方で多くの人がテープに録音していたように、CD-Rを使っているかというとこれは疑問です。最新の状況は良く知りませんが、私も今のパソコンを買ってCD-Rを使い始めたときは失敗の連続でした。パソコンの設定状況によっては、データの転送速度が十分に取れず、CDを焼いている途中で失敗することがあるのです。CD-Rも一回修理に出したことがあります。
仮にハード的に問題がなかったとしても、CDを焼くにはいろいろな知識が必要。それは逆にいえば、いろいろなことが出来るようになったからでもあります。例えば、Disc at once/Session at once とか、クローズセッションとか、いろいろな用語が出てきて、いろいろな場所でそれらの選択を迫られます。それにきちんと答えるには、マニュアルの最初に書いてある「CDの仕組み」を読まなければいけません。今までテープに録音していたように、CDに書ければいいんです。でも、CDを焼くソフトは多機能すぎて、CDを焼くために必要な知識を要求してきます。

画像関係も結構つらいですね。
dpiという単位もわかる人にはわかるけど、まだまだ皆が知っている単位とは言いがたいですね。これを知っていれば、何に使うかで画像ファイルの細かさを考えることが出来るし、あとでどの程度まで加工できるかもわかります。
同じような単位としては、デジカメの何画素とかいう言葉。あれって一般の消費者には酷だなあ、と思います。「写るんです」とかで全然不便を感じないくせに、100万画素とか300万画素とか言われると、やっぱり数字の大きいほうがいいなって思ってしまいます。そもそもカメラを買うときに、自分がどの程度の品質を必要としているかそれほど正確に判断できるでしょうか。
画像と言えば色。デジタルが扱える色の数は256色から、65000色、1670万色などというように進化していますが、そんな数字言われたって実感湧かないですね。いずれも、一ドットあたりの色指定を2の8乗(1bye)、16乗(2byte)、24乗(3byte)分だけ情報を持てるといったことを表すわけですが、どれ以上あれば十分か全然判断つきません。ちなみに、Webを記述するHTMLでも、背景とか字の色とかを1670万色で指定できますが(Red, Green, Blue それぞれ1byteずつ)、考えるのが面倒くさくて一度考えた色をそのまま使い続けていたりします。
今やPhotoshopも結構多くの人が持っていますが、相当な専門家でないと知らないような機能もたくさんあって、やっぱり本格的に画像を扱おうと思ったらこれらの知識が必要になってきます。

自分で多少関係があることといったら、パソコンでの楽譜浄書。
これは本当に日々楽譜を書く人にとっては福音でした。楽譜を手書きできれいに書こうと思ったら相当な労力が要ります。特に移調楽器の扱いとか、パート譜の作成なんかはパソコン浄書で本当に便利になります。
その一方でちょっと簡単に楽譜を書いてみたいと思う人には、相当敷居が高くてやはり楽譜、あるいは楽典全般の高度な知識がないと難しい部分はあります。コンピュータによる楽譜浄書に関しては、また別の機会に詳しく書いてみたいと思います。

確かにいろいろなことがパソコンで簡単に出来るようになったわけですが、逆に知らなくてよかったことも否応なしに覚えさせられます。結局のところ、使う側の知力、気力が非常に試されるわけで、それはそれで大変な世の中になったといえるかもしれません。おそらく、どんなにUIを工夫しても、どこかで専門知識は必要になってきて、「誰でも簡単に」というかけ声が幻想であることにだんだん人々が気付いているのではないでしょうか。
こういったことが世の中の常識になっていくとしたら、私たちの生活は恐ろしく知識偏重になってきて、ますます人々の挫折感をかきたてることにならないでしょうか。IT時代がどのように世界を変えていくのか、どちらかというと私はそういうことに興味を覚えたりしています。



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