作曲コンクールとは何か?(02/5/4)


私のようにアカデミズム出身でなく、また音楽界とも無縁な人にとっては、自分が作ったものを評価してもらう場は作曲コンクールしかありません。幸い、何回か入賞に引っ掛かったりしましたが、何度も挑戦してみていろんなことを感じています。普段演奏の立場でしか接していなかった人にも、是非作曲コンクールとはどんなものなのか考えてほしいと思うのです。
なお、以下の文章は私が関わった合唱関係のコンクールに基づいているものと考えてもらってよいです。

作曲コンクールを取り巻く人々は、簡単に言えば次のような立場に分けられるかと思います。
一つは応募者、あるいはいずれ応募しようと考えている人。次に審査員。そして最後にその結果を享受する人、演奏家であり出版社であるかもしれません。広く考えれば全ての音楽愛好家ということになるでしょう。
挙げた逆の順でそれぞれの立場の考え方を想像してみましょう。
まず結果を享受する人、つまり一般の音楽愛好家。クラシックでは、演奏家のみならず作曲家でもそのプロフィールには多くの賞歴や活動などを記するのが一般的です。少なくともそれを眺める限りは、賞歴は多いほど、そして有名なほどいい印象を持つにきまっています。では実際にその賞を取った曲を聞いて、一般の人はどう思うのでしょうか。器楽曲では、ほとんどが前衛的な曲で現代曲マニア以外はそうそう興味は持てないでしょう。恐らく合唱であっても難解な響きを持つことが多く、「?」という印象を持つことのほうが多いのではないでしょうか。そう思うと、作曲コンクールに応募する人などほとんど同じ穴の狢であり、一般の人にはわけのわからない優劣を、わかる人たちだけで競っているように思えてしまうかもしれません。
つまりコンクールでの受賞という肩書きは信頼しても、受賞した作品に共感することは稀であるように思います。合唱の作曲コンクールはそれでも比較的理解しやすい曲が入賞していると思いますが、これまで入賞曲が全国でまたたく間にブレークしたという現象はあまり聞いたことがありません。残念なことですが。
そんなとき、一般の愛好家の人はどう考えるでしょうか。「作曲家という人種は常に斬新なことをやらなければいけないと考えているから、誰が入賞しても一般に人気がでるような曲が出て来るわけがない」「やはり、作曲の力を評価しているのだから入賞しなかった曲は音楽的にもっと面白くないに違いない」、恐らくこんな感じではないかと推察しますがいかがでしょう。

次に作曲コンクールの審査員はどうでしょう。恐らく、そんな経験ができる人はごくわずかなので(当たり前)、これこそ想像するしかありません。審査員はある程度のネームバリューのある人でなければいけません。そうでないと、作曲コンクールの権威が保たれないからです。ところがネームバリューのある人は忙しいに決まっています。審査に関わる時間が審査員にとって十分であるかは個人的には疑問を感じます。
例えば譜面審査なら、恐らく数時間(午前とか午後とかいう程度の枠で)審査員に集まってもらい、10〜20作品くらいの曲数から3,4曲の候補曲をしぼるという作業になるかと思います。演奏審査は実際に演奏する時間があるし、その間に考える余裕も十分にあると思いますが、譜面審査の時間のなさはかなりきついと思います。
もちろん、譜面審査の段階では玉石混交で、楽譜を一通り目で見るだけでボツ決定というのもあるでしょう。だいたい作曲とか、小説書きとか、詩を書く人とかというのは、一定のトンデモ系、勘違い系というのがいるものです(自分もそうだったりして)。そういった作品を外していくのは、おそらくそれほど骨の折れる作業ではないでしょう。
しかし問題は次に必要数まで絞り込むときです。ある程度音楽的に練れている曲の中から、それらの曲の優劣を決定しなければいけません。浄書もされておらず、どんな書法かもわからない相手の譜面を見て、いきなり頭の中だけでその音像を想像することは大変難しいはずです。ピアノとかで弾いたとしても、局所的な和声構造を把握できても、音楽全体の流れや作曲家がしかけた仕組みまで完全に読む取ることはやはり大変です。(あくまで想像です。実は全然大変じゃないのかも)
結果的には、恐らく音の運び方の書法の確かさ、和声的な破綻のなさ、という極めて保守的な基準に頼らざるを得ないのではないでしょうか。保守的な基準で選ぶとは、保守的な(前衛的でない)曲が選ばれることとは違います。今や12音技法だってとびきりの保守的技法ですから。
それからもう一つ言わせてもらうと、音の運び方が基準になるのなら、音の連結をしっかり制御しきれているかが問題になります。これは結果的に同じ力量なら、音の連結が多いほうが音を制御しきれている印象が強くなると思われます。ありていに言えば、音符数が多いほど有利になるような気がするのです。これは合唱曲でいうなら、アカペラよりもピアノ伴奏付きのほうが有利だし、アカペラでも複雑でdiv.が多いほど有利ということになってしまいます。

おっと、だんだん手が滑らかになってしまいました。とりあえず今回はこのへんで。


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