音楽の怪しいリクツ 倍音篇その2(02/4/20)


前回も書きましたが、なかなかわかっているようで、わかってもらえないのがこの倍音の話です。今回は、もう少し倍音そのものの実態について書いてみましょう。
何しろ、ピッチのある音には全て倍音があります。この倍音は、第1倍音から順々に2,3,4・・・と命名されます。物理学的には、まさに言葉どおり周波数が2倍、3倍になっていくわけですが、音楽上では音階に配置されると2倍、3倍という感覚がぴったりこなくて、なかなかわかりづらいかもしれません。

さて、突然ですが一つシェアウェアを紹介しましょう。
http://www2.tky.3web.ne.jp/~nozu/fftwave/
別にこの作者の知り合いでも何でもないんですが、たまたまいろいろ検索していて見つけたのです。
このソフトは見ての通り、FFTの変換をして、オーディオ波形をリアルタイムに周波数分析するものです。もし、あなたのパソコンにオーディオ入力があるのでしたら、その信号を分析して画面上で見ることが出来ます。FFTとは、振幅と時間で表される音の波形情報を入力すると、その波形に含まれる周波数を解析して、音声を縦軸に振幅、横軸に周波数のグラフで示すことが出来るものです。その昔、このようにリアルタイムでFFTをして表示するような測定器はウン百万もしたものですが、今ではパソコン一台で出来てしまうのですね。

というわけで、早速これを使ってみましょう。
まずこのソフトをパソコンにインストールします。次にマイクをパソコンのオーディオ入力につなげます(もちろん、ゲインが合わなければ途中でMixerなどを通す必要はあるかもしれません)。サウンドカードなどの設定でオーディオ入力を使えるようにすれば、これでマイクの音をFFT Waveで表示させられるようになります。
まずは一定のピッチでマイクで歌ってみます。すると、画面上に何本もの上側に尖った刺みたいなものが現われます。そう、これが倍音です。一番左側にある刺が第1倍音であり、いま自分が歌っているピッチそのものになります。この刺を左側から順々に2倍音、3倍音と呼んでいくわけです。今歌っているピッチから、すこしずつピッチを上げていきます。すると、刺の一群は右側に移動していきます。もちろんピッチを下げていくと、左側に移動します。
次に、「あ、い、う、え、お」と母音を変えて歌ってみましょう。母音によって、倍音の構成が変わっていくのがわかると思います。特に5倍音以上の倍音が大きく変わっているようです。ちなみに、私の声で試してみたところこんな風に倍音は変わっていきます。まず、開口系で一番倍音が少ないのが「お」と歌ったとき。それから「あ」に変えていくと、8倍音あたりから上の倍音の一群がぐわっと大きくなります。次に「え」に変えていくと、「あ」で増えた倍音の一群がそのまま上のほうにずれていきます。ここで「い」に変えると、「え」の倍音構成の中盤くらいの倍音がごっそり減っていきます。さらに「う」に変えると、上側の倍音もなくなります。恐らく「う」は母音の中で最も倍音が少ないのでしょう。
ちなみに、私の声で裏声に変えてみると極端に倍音は減ります。実声との差が少ないほうが良いのでしょうが、純正ベースの私ではなかなかつらいところ。
そんなわけで、ここで示されるように、倍音の構成とは音色の違いを表していることに他なりません。母音の違いとはまさに音色の違いであって、口の形を変えることによって、音声にそれぞれのフィルター効果がかかり母音の違いを表現することが出来るのです。

細かいリクツがわからなくても、こうやって自分の声がすぐにグラフになって見れるようになると、倍音もなんとなくどんなものかわかってくると思います。今回の合言葉は「自分の声の倍音を見てみよう!」です。
このように技術的に音声を分析して、音楽でどのように生かしていくかを考えるのも面白そうです。もしかしたら、将来ボイトレは声をリアルタイムで分析しながら、「ほら、あなたの声は、ここの倍音がね・・・」なんて会話が交わされたりするかもしれません。それはそれで、面白いような怖いような気がします。



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