暗譜はつらいよ(01/12/8)


世の合唱団員の多くが、技術以外の部分で最も苦労しているのは暗譜かもしれません。
私も超苦手です。もともと物覚えが悪いタチですから。最近は率先して、暗譜に反対しています。(^^;;

でも学生時代はやはり暗譜で歌うことがほとんどだったと思います。当時は、人前で演奏する=暗譜で歌う、というくらいの図式がありました。もちろん、その頃は私も人並みに暗譜して歌っていたはずですが、今考えてみるとやはり学生時代というのは圧倒的に練習量が多かったんだろうなと思います。
それに比べると、今はステージの数ばかりがやたらに増え、1年間に歌う曲数も増えているのに練習の回数は決して多くなく、こんな状態では暗譜は当然きついはずです。ですから、最近はほとんど譜持ちで歌うことが多くなりました。それでもときたま暗譜で歌わざるを得ないことがあって、その度に気が重くなっています。

先ほども言ったように、私の場合物覚えが悪いことを十分自覚しているので、暗譜をする場合人よりもより戦略的なアプローチを取ります。文章の頭の文字だけを拾い集めて、それだけを覚えたり(出だしが思い出せればあとは何とか歌詞が出てくる)、同じフレーズが出てくる回数をまるで電話番号みたいにして覚えたりします。他の人に言わせると、そんな変なことをしたらかえって覚えられなくなる、のだそうですが、すぐに曲を覚えてしまう人には私の気持ちなんかわかりません。
最近、最も苦労したのは、某アンサンブルコンクールのために暗譜したジャヌカンの「マリニャンの戦い」です。これはマジに泣けますよ。私の頭は電話番号のような数字の羅列で頭が一杯になりました。曲を知っている人にはお分かりかと思いますが、この曲、同じフレーズを何度も何度も繰り返すので、その回数を覚えておかなければいけないのです。また、全曲を通してテンポが速く、特に後半のドンパチ部分では一度落ちるとリカバることはほとんど不可能です。リハのときベースが途中で落ちてしまい、本番は楽譜を持とうかと本気で思いましたが、結局本番は暗譜のまま何とか歌いきることができました。
ちょっと前は、カルミナブラーナのインタベルナ(In taberna)に苦労したことがありました。このときは本番は暗譜ではなかったものの、あまりのテンポの速さと言葉の多さで、楽譜を見ていると音楽についていけなくなってしまうので、もう覚えるしかないというところまで追い込まれてしまいました。毎日、お経のように唱えていたことを思い出します。

しかし、なぜ合唱って暗譜することがこんなにも要求されるのでしょうね。
音楽ジャンルごとに暗譜する/しないを考えてみると面白いかもしれません。
まず、オーケストラは暗譜をしない!ずるいですねぇ。譜めくりも誰がめくるかまでシステマチックに決めてあったりします。では、器楽系は暗譜しないかというと、そういうわけではありません。例えば協奏曲のソリストは普通暗譜で弾きますね。バイオリンコンチェルトなんか、譜面を見て弾いたらかなり興ざめかもしれません。
より個人がフィーチャーされた音楽では、中心になる人は暗譜で演奏することが多そうです。ソロ歌曲なんかも、普通は暗譜で歌いますし。また、指揮者でも暗譜で振るということにこだわっている人も時々います。
ポピュラーの世界では、これはほとんど暗譜ですね。バックバンドだったら楽譜を持つこともあるでしょうが、アーティスト本人はまず楽譜を持たないでしょう。
そう考えると、暗譜というのはほとんどの場合、見栄えの問題なのかなという気がしてきます。あるいは、自分が演奏する音楽に対して、どれだけ準備してきたのかを示す一つの尺度になっているようにも思えます。しかし逆に、譜面を持つことがより専門性を醸し出すような感じもあります。つまり、どのような曲も少ない練習で音楽にすることができるというのは、ある意味プロ的な仕事とも言えるからです。
合唱でもプロ合唱団はほとんどの場合楽譜を持って歌います。少人数の場合なら、譜面たてを置く場合も結構あります。そういうのを見て抵抗が無くなったのか、最近はアマチュアでも一般合唱団なら譜面を持って歌うことがそんなに恥ずかしいことだと思わないようになってきたように思います。

こんなことを言うと私は暗譜反対論者のようですが、そんなことは決してありません。残念ながら素人合唱の世界の場合、譜面を持つと指揮者を全然見ない人がいるという超基本的なレベルで悩まされることが少なくなく、そういう場合はやはり暗譜して体に叩き込んでしまうしか方法はないようです。



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