アクロバット系合唱曲は関東大会で聴け(01/10/1)


今年も関東大会に参加してきました。
我々は毎年参加賞ですのでそちらのほうは置いておくとして、やはり関東大会では一般の部(特にAのほう)がいろんな意味で非常に面白くて、これを一日中聞いているだけでも楽しめます。
昨年は、比較的選曲の方向が分散していてそれはそれで楽しかったのですが、今年はなぜか一気に難曲傾向が高まりました。なんか、こういうのは周期的にやってくるものなんでしょうか。

それで、そういった曲を私は敢えて「アクロバット系」と言いたいと思います。
私がアクロバット系というのは具体的にはこんな感じです。声部が非常に多く個人の声楽的力量が試される曲、ポルタメント指定や奇声、無声音などの非楽音が多用されている曲、身体の動作を伴う曲、クラスター的な密集和音を多用している曲、ピアノ以外の飛び道具を使った曲、などなど。もちろん、人によってその線引きは違うとは思いますが、いわゆる通常の楽音とメロディを使った楽曲からは程遠いような音楽です。
アクロバット系と一口に言っても、もちろんいい曲もくだらない曲もあります。残念ながら、こういった曲はほとんどが最近の曲であり、まだ歴史の淘汰を受けていないわけで、だからこそ選曲側のセンスが問われるわけですが、問われるセンスそのものがまだ固まっておらず、そして曲の持つ先進性だけが強調されてしまったりして、結局のところアクロバット系をやればコンクールで良い成績を取れる、という演奏側の幻想だけが肥大しているのです。これは審査員の講評でも、コンクールを意識しすぎた選曲が横行している、と述べられていました。
審査員がそのような苦言を呈したにも関わらず、コンクールの上位入賞団体はやはりアクロバット系の曲を演奏しています。だから、それらの曲を演奏する団体が後を絶ちません。
今回圧倒的なインパクトで一般Aで一位となったのは埼玉県の VOX GAUDIOSA。自由曲は、1曲目がポピュラー的な雰囲気を感じさせるリズミカルな現代曲。これがなかなか良い感じの曲です。これだけで十分私は楽しめたのですが、2曲目に振りつきのアクロバット系合唱曲を完璧かつコミカルに演奏。最後の礼まで、演奏効果と一体化させるシャレた演出で、会場を大いに沸かせました。これはやられた、と素直に思える好演です。この団体のアクロバット系の処理の仕方は実に的確でセンスが良いのです。それはやはり作曲家でもある松下氏の曲を読み取る力が大きいと思うし、また嫌味にならない程度の演出の面白さを知っている、そういったセンスのたまものでしょう。
アクロバット系といえば、これまではマルベリークワイア、Juriが毎年楽しませてくれましたが、なぜか今年は参加せず。どうなることかと思いきや、今年は松下系合唱団がいずれも素晴らしいアクロバット演奏で、新たな展開を見せています。関東大会の一般の部はもう、アクロバット系合唱曲の宝庫です。これはもう聴かなきゃ損ですよ!
しかし、その反面、それらの曲が完全に消化し切れていない団体も目立ちました。それでも、思いもかけない団体が審査員に評価されてしまったりしていて、自分の見識よりまず先に思わず審査員の審美眼を疑ってしまったりしています。今回も例にもれず、邦人アクロバット系合唱曲はほぼS氏の独壇場でしたが、それらを何の疑いも持たず一生懸命音符を形にしただけのような演奏は、私はどうも疑問を感じてしまいます。みんな、身の丈にあった音楽をしましょうよ。

そんな傾向の一般Aの中で、古楽の様式に徹底的にこだわった山梨代表のKMCの演奏には大変好感を持ちました。声もぴったりあっているし、ルネサンス的なフレージングや、グレゴリオ聖歌の流麗な演奏は、古楽演奏としても一級品だと思います。しかし残念ながら、そのような古楽の様式美を理解してくれた審査員は得点表を見る限り5人中2人だけでした(もちろん、知った上で評価しなかった可能性もありますが・・・いや、やっぱり知らないんだろうなあ)。審査員がいけない、といっているわけではありません。そもそも、こういった古楽演奏とアクロバット系を一緒くたに評価してしまうというシステムの問題なんだと思います。



inserted by FC2 system