MIDIの難しさ(01/8/5)


すでに何度も談話で書いているように、私の音楽活動は電子楽器やパソコンの音楽ソフトに大きく依存しています。
これらの電子楽器やシーケンサを中心としたパソコンソフトにおいて、重要なものはMIDIという規格です。いまや、どのパソコンにもMIDIのドライバやソフトシンセなどが標準搭載されるようになって、MIDIのファイルも聞くだけならダブルクリックするだけで音が鳴るようになってきているようです。とはいえ、MIDIについては一般の人にはなじみが薄いし、wavやMP3などのデータに比べるとなかなか理解しがたい部分もあるのは事実でしょう。

私はシンセを使い始めた大学の頃からMIDIを使っているし、会社に入ってからは電子楽器の設計をしていて、仕事の上ではMIDIを使ってもらうような立場で製品を作っているわけで、もう公私共にMIDIの世界にどっぷり漬かっている生活をしています。
MIDI規格が出来たのは80年代前半で、その頃から比べるとパソコン環境も全然違うし、今となってはこのMIDI規格自体が随分古めかしくなってしまった感じもあります。確かにコンピュータに詳しくない一般の人から見れば、扱いやすさの点からMIDIは決してわかりやすいものではないと思われます。
その一つの大きな原因は、MIDIの使われ方が、規格が出来た当初より大きく変わっているということがあると感じます。
MIDIが出来た当初は、一つの楽器で他の楽器もコントロールできる、というのが主な使われ方でした。今より電子楽器の表現力が少なかった当時、分厚い音を作るのに、複数の楽器の音を重ねて一つの音色とするために、一つの楽器を弾いただけで別の楽器も同じように弾かれたように発音できる、というのがMIDIの大きな目的だったのです。
従って、MIDIのコマンドはその多くが、シンセサイザーキーボードの操作子がどう扱われたか、という視点で作られています。ピッチベンドはピッチ操作をする場合が大半ですからまだいいとしても、モジュレーションホイールやアフタータッチ、今ではほとんど使われないイーチキーのアフタータッチなどは、音色や楽器の設定によってその効果も変わってしまい、直接的に音の変化を扱うようなパラメータにはなっていません。あくまで、各楽器の使い方を熟知した上で使うパラメータなのです。
MIDIが広まり始めた頃に、MIDIシーケンサという新たな商品が生まれるようになりました。あらかじめ、MIDIのコマンドを打ち込んでおけば所定のタイミングでMIDIコマンドを発信できるという機器です。これにより、音楽の自動演奏が非常に容易になり、音楽製作の重要な要素の一つになっていきます。そして、専用機器であったMIDIシーケンサはパソコンソフトになって多くの音楽家がすでにパソコンなしでは音楽が作れないという状況にまでいたっています。
ところが、このMIDIコマンドはいまだに一つ一つの楽器の操作子をコントロールするという視点を持っているために、そこで作られたMIDIデータ(たいていはSMFフォーマットによるファイル、例えば.mid形式)は、機種間で互換が無いのが普通です。これをある程度の互換まで持っていこうとしてGMやGM2などの規格も生まれているわけですが、やはり本質的な解決になっていません。本音を言えば、これは電子楽器開発の中でも大きな負担になっていたりもするわけです。

もう一つ、MIDIのわかりにくい点としては、ほとんどのシーケンサがMIDIの生データを扱っているという点。例えば、NoteOnは3バイトのデータがあるとか(そこまで直接見せないかもしれないけど)、変化の幅が0〜127だとか、音色変更はBank Select MSB, LSB とProgram Changeの3つのコマンドを送らなければいけないとか、知らなきゃ出来ないよと思われることが結構あります。
最悪なのはExclusiveのエディットで、16進数で記述しなければいけないなんて言うのは、プログラマでもない人にとっては苦痛でしかありません。おまけに、チェックサムを取るために(コマンドが合っているかのチェックのため)16進数の足し算した結果を入れておかなきゃいけないなんて最悪ですね。

MIDIがもっとわかりやすくなれば、コンピュータに詳しくない音楽愛好家にもっと使われるようになるのになあ、と思ってはいるものの、ここまで広がってしまったMIDIの世界を早々変えるのは難しい話なのでしょう。


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