薔薇色の未来?その1(01/5/12)


これまでの考察から発展させて「未来予想」してみましょう。
例えば音楽の世界において、デジタルコピーは合法となり(あるいは事実上取り締まり不可能になり)、アーティスト側がコンテンツ配信による報酬を期待しないで活動するようになったらどうでしょう。
アーティストはまず、自分の曲をコンピュータやその他の録音機材、そして必要なミュージシャンを調達して曲を完成させます。その曲は最終的にはステレオのデジタルオーディオ信号に符号化されます。いわゆる原盤製作です。
このコンテンツは、アーティスト自身によりネット上に公開するか、あるいはしかるべきコンテンツプロバイダに配信します。ネット上には多数の音楽配信サイトがあり、その他にも人気ランキングサイト、紹介サイト、批評サイトにより、コンテンツは評価され、そしてその評価が世間一般のコンテンツの評価を定めます。コンテンツ享受者もこの評価を参考にしながら、無料でコンテンツをダウンロードします。

上記のコンテンツの流れからは、いかなる金銭の流れも発生しません。
上で一番、コストがかかるのは原盤製作ということになると思いますが、最近ではパーソナルレコーディング環境も充実しており、多少の機材を揃えればそれなりの音源を製作することは可能です。それでも、もう少し質の高いものを作ろうと思ったら、アーティスト側が多少の出費を覚悟しなければいけないでしょう。
それでは、アーティストの収入源が無くなってしまう、という心配もあるでしょう。しかし、これこそ発想の転換です。今でも多くのアマチュアミュージシャンは上のようなコンテンツ配信をしているはずです。だから、こういった形が一般になれば音楽家にプロもアマもなくなるほどの効果があるわけです。それでも、音楽だけで暮らしていきたいと思うなら、演奏会活動(コンサート)をすればいいのです。アーティストと同じ場所で音楽を楽しむことは、いかなるデジタルコンテンツでも満たすことはできないはずです。ですから、音楽家がコンサートで収入を得ることは一番正しい方法なのでは、と思います。あるいは、時代が逆戻りしてパトロンに経済的な保護をしてもらうようなアーティストが出てくるかもしれません。
また、上記の各種サイトはほぼ全て非営利で運営されます。それにより、真に公平な音楽批評が可能になります。経済的関係によるバイアスのかからない批評が今の世の中でどれだけ可能か考えてみてください。私見では今の世の中、一人でどんなに音楽雑誌を読んでも、正しい評価は得られないように思います。本当に一般の人がどうに考えているかは、他の音楽愛好家との交流は不可欠なのです。パブリックなものほど、正しい批評活動が行われなくなってしまうのは残念なことです。何にも束縛されない批評活動には、批評相手といかなる経済的関係があってはいけないのです。

先日、テレビでこんなことをやっていました。
近年、クラシック系レコード業界では邦人アーティストの売れ行きが非常に良いそうです。そして、レコード業界では、そういった視点で新人アーティストを発掘しているようです。最近のクラシックのCDでも、そういったアーティストを前面に出したものは、なんだかポピュラー音楽のようなジャケットで、明らかにこれまでのクラシックの売り方と変わっています。まるでアイドル歌手のようなのです。
新人発掘をしているレコード会社担当の人は、こう言い切りました。「演奏レベルというのはある程度以上ならもうほとんど一般の人には差はわからない。それなら、もっとその人らしい明確な個性が必要なんです。」
個性というと聞こえはいいけど、実際にはルックス重視、選曲も純粋なクラシックでない編曲物も相当多く、イメージ先行型であることは否めません。
もちろん、クラシック音楽だけをやるべきだ、などと私は言いません。しかし、こういった売り方こそ、市場が伸び悩むクラシックレコード業界を象徴しているし、私にはクラシックレコード業界の断末魔の叫びのように感じます。
もし、そのアーティスト自身が自分の力で音楽を表現する力を持っていなければ、2,3年もするうちにレコード会社から捨てられるでしょう。彼らの代わりになる人はいくらでも順番を待っています。そしてこれこそ、商業主義の血も涙もない恐ろしさなのです。

残念ながら、一般消費者はまだそういったレコード会社の戦略にまんまとはめられています。実際、莫大な広告費を充てれば、それなりにレコードは売れるのです。そうなると、何を売りたいのかはレコード会社の恣意に委ねられ、そのことは本当に人々が聞きたい音楽が一般に流通する大きな壁になっていると思います。
だからこそ、音楽コンテンツ流通が経済的な市場ではないところで行われることは、音楽文化が一般の人により広く享受される大きなきっかけになると思えるのです。


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