混声合唱のための「応答願イマス」


初演のプログラムより

今この時代、何不自由なく私たちは生きています。あるいは、私たちはほんのささやかな物欲のためだけに生きているのに過ぎない、とさえ感じます。そんな飽食の時代になってもどうしても手に入れられないのは、そして自由にならないのは、やはり人の心なのでしょうか。僕たちは自分の身勝手さも気がつかずに、他人に無償の愛を求めているのかもしれません。あるいは、傷つくことを恐れ、必要以上の孤独を背負ってしまっているのかもしれません。渇望するのに自由にならないもの。でもそれを物欲と同じように短絡的に手に入れようとする人がたくさんいたっておかしくないのが今の時代なのです。
この詩の作者、辻仁成氏はロックバンド、エコーズの元ボーカリストであり、そして今では芥川賞作家として、アグレッシブで刺激的な小説を書き続けている現代の才人です。私たちが本質的に抱えている心の孤独を鋭く描き、それでもなお懸命に生きていくことを説いている現代の吟遊詩人です。
一見、ナンセンスな言葉の連なりのなかに、「僕に」「応答」してくれる誰かを「待っている」そんな必死な願いを、語り口調をベースに合唱曲にしてみました。「応答願います」という心の叫びを曲の頂点として、各パートに散発的に言葉がちりばめられています。この語りがどこまで聴衆に伝わるのか、作曲家としての私の実験作でもあります。



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