移動ドのススメその3(00/11/19)


先日、某職場団体の練習で、「移動ドで歌ってみよう」という取り組みをしてみました。
すでに練習では何回か音取りをしているので、全員にとって初めての曲というわけではありません。そして、今回の試みは音取りのため、というよりはハモリの精度を高めるため、ということが特徴です。日頃、移動ドを推進している私としては願ってもない試みでしたが、その練習で、移動ドが音取りだけでなく、ハモリにも影響するということは結構新鮮な驚きを感じたのです。
その曲は、全体として調性が一貫しているわけではないのですが、部分的には個別の調性が感じられたので、皆で相談しながら「ここからA-dur, ここからG-dur」というように取り決めをして移動ド読みの調性を決めました。ところどころ転調の過程にある部分については、各パートごとに採用する調を変えるといった工夫などもしました。テンポは割と遅めだったので、移動ド読み替えで歌うにはちょうどよい頭の体操になったかと思います。最初はかなり苦労した人もいましたけど。

もちろん、読み替えにはかなりの集中力が必要で、音を取るよりこちらのほうに気を取られてしまう、と一般的には思うでしょう。ただ、合唱経験の有無に関わらず、「ドレミファソラシド」という音階は相当の深層心理まで刻まれているものです。だから、言葉で「ドレミ」を言っただけでも無意識に正しい音程を探しているのです。
逆に、音楽の専門教育を長く受けてきた人ほど、「絶対音感」的に音を取ろうとするので、こういったやり方に反発を覚えるかもしれません。そういう意味でこの取り組みは、この曲だからこそ、このメンツだからこそ、できたとも言えます。実際ここのメンバーはかなり知的レベルも高いですし(だからといって歌がうまいかというと...)。

通常の長三和音(ドミソ等)、短三和音(ラドミ等)は、どの調であっても誰でも比較的認識しやすいので、瞬間瞬間の和音の中でハモらそうする意識は多くの人にあるはずです。ただ、音楽はあくまで時間軸上で絶えず流れているわけで、横の流れの影響で瞬間のハモリが悪くなることも往々にしてあります。そうした場合、スケール感を安定させる移動ド読みはかなり効果があるでしょう。
また、少しテンションが増えた和音、特に昨今の曲で頻出する長七和音(ドミソシ等、いわゆるmaj7)、長九和音(ドミソシレ等)になると、音のぶつかりが増えてなかなか安心して歌えない人が出てきますが、それでもこれらの和音はテンション音がスケール内にあるので、移動ド読みでかなり安心して自分の音を歌えるはずです。
したがって、曲調によっては移動ド読みでハモリの精度を高める訓練が出来る、ということが言えると思います。また、長い目で見れば、あまり気にもしなかった曲の調構造を認識することにもなり、イメージだけで曲の良し悪しを感ずるだけでなく、より作曲家に近い目で曲を感じることにもつながります。もちろん、和声の感覚もだんだん身についてくると思います。
私から見ればいいことづくめのように思える移動ドですが、パズルを解くような難解さが理科系人間を満足させているだけで、そんなことよりもっと別のことにパワーを注ぎたい、と思う人もまだまだ多いのでしょう。


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