移動ドのススメその2(00/8/12)


どちらかというと抽象的な話題が多かったので、具体的な技術上の問題について考えてみましょう。
前も書いたように移動ドの実践には下の二つの段階を踏みます。
1.まずその曲の調性を調べます。
2.その調性に合わせてドレミの読み替えをして、音符を読んでいきます。
それでは実際に私が「ドレミ」の階名で歌っているかというと実はほとんどそうしていません^^;。1曲まるまる同じ調性の曲の場合は、時々ドレミで歌いますが、たいていそういう曲はそれほど難しくないので、わざわざ階名唱しなくても音は取れることが多いのです。ただ、跳躍する音程があったりすると、階名に頼ることになります。また、頻繁に調が変わる場合は、逆に口でわざわざ読み替えて歌うことが苦痛で、頭の中だけで階名で歌っています。結局は音がとれればいいわけで、わざわざドレミで歌わなくてもいいとは思っていますが、あんまりこういうことになれると、階名唱の能力が退化してしまうことがちょっと心配です。

それはともかく、具体的な技術についていくつか思いつくことを書いてみます。
まず技術的な問題の一つとして、短調はどう対処するか、というのがあります。調性というと、へ長調とか、ト短調とか、必ず長調か短調かを言い表しますが、私自身の考えとしては階名唱の際、短調というのは特に区分けをする必要はないと思います。つまり平行調であるハ長調とイ短調は同じ読み方をしますし、へ長調とニ短調は同じ読み方をします。私たちが最初に認識する調としては全部で13(#方向に6つ、b方向に6つ、ハ調と合わせて13)、譜面の読み方としては7(譜面上ではドの位置は7箇所しか取りませんので)を取り扱うことになります。ただし、短調を区分けしない、というのは調として別のものと認識しないということであって、その曲が今短調かどうかというのはそれなりに感じる必要はあります。それは以下の変化音の取り扱いに対して必要になってきます。

次に#やbの変化音が多くなったときの階名の取り扱いの方法が問題です。
明らかにある区間調性が変わったのなら、「ドレミ」を読みかえる必要がありますが、瞬間的な変化音の場合はその調の範囲内で対処するほうが効果的です。従って、新しく出てきた変化音がかなりの小節の間続いているのか、数小節先をざっとスキャンして眺めてみることが必要になります。曲のジャンルや作曲家によってもこのへんの感覚は違うのですが、バッハの音取りに関しては、このあたりのセンスが非常に問われます。バッハの場合、ある一節がまるまる違う調に変わっていることがよくあるので、その変化音がどこまで有効かチェックし、階名の読み替えの判断をします。
例えば、今調号として#が一つついている状態(ト調)だとします。あるとき、C#->Dという動きがあった場合、これはファ#->ソの動きとなりますが、その後もCに絶えず#がついているようなら、その区間はニ調に転調したとみなし、ソと歌ったところをドに読み替えます。ただ、このC#がほんの一時的なものだとしたら、ファ#->ソの後もト調の階名のまま続けます。
同じくト調のとき、D#->Eという動きがあったらどうでしょう。その後も何度かD#が出てきたとしても、それはEをドと読むホ調になる可能性は低く、むしろホ短調、つまり平行調であるト調のまま読んでいい場合のほうが圧倒的に多いはずです。もしホ調になるのなら、D#のほかにG#も必要になるからです。これが先ほど、短調も多少感じていてほしい、という場合の例です。変化音で半音の音程が出来たら、もちろん導音的性格を持つのですが、それは短調の場合ソ#->ラであり、こう認識するためにも長調的雰囲気か、短調的雰囲気か感じておくことは必要です。

と考えてみると、#がついた場合本当に転調しやすいのは ファ#->ソ が圧倒的で、ド#->レ、ソ#->ラなどは、その調のUの和音かYの和音に移りやすくするための音である場合がほとんどのように感じます。レ#->ミ、ラ#->シ というのは頻度的にもかなり少なくなります(逆に突然出てくるととっさの判断が出来なくなることも多いのですが)。
また、bの場合、シb->ラ が一番転調しやすく、あと出る頻度としては、ミb->レ、ラb->ソ、レb->ド、というふうになるでしょうが、バッハからロマン派にかけては#系の変化音のほうが多いように私は感じます。
だんだんこのあたりを極めようとすると和声学の世界に入ってくるのですが、これ以上書くとボロがでそうなのでやめておきます。ただ、変化音に関しても、移動ド的に発想することにより和音を感じながら歌うことが出来るようになると思うのですが、いかがでしょう。



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