ゴスペルブームって?(00/4/16)


ゴスペルが流行っているようです。NHKでもゴスペルの番組が始まったみたいですし、音楽教室なんかでもゴスペルの講座が開かれるようになってきています。
一般的にゴスペルといえば、黒人歌手がこぶしをいれながらシャウトして歌っているとか、ポピュラーっぽい曲を数人くらいでかっこよくハモリながら歌っているとか、そんなイメージがあるのだと思います。もちろん、流行っているからこそ、多くのゴスペル曲が聞かれるようになって、またそういった曲に感動する人が増えているということもあるのかもしれません。しかし私の見たところどうもこのゴスペルブーム、本質的にゴスペル音楽が多くの人に聞かれるようになった、というよりは、単にゴスペルっぽく歌ってみたい、という人が増えているだけのような気もします。ゴスペルを歌うことが、腹の底から声を出すことによって自分自身を解放しよう、みたいなある種の癒しの効用を喧伝しているように思えるのです。
ところで、そもそもゴスペルって何?というのがあるんですが、少なくとも私の認識ではゴスペルとは最低限、宗教曲でなければいけないと思ってます。教会で歌われる曲といえば、讃美歌とかコラールみたいなもの、あるいはラテン語の典礼音楽みたいなものと思われますが(もちろん合唱ではそういう曲が歌われるわけですが)、黒人が中心になって教会で歌われるようになった土俗的な音楽がその中でもゴスペルと呼ばれるようになったのではないでしょうか。そういう意味において、最近のゴスペルブームで例えば「上を向いて歩こう」をゴスペル風に歌う、なんていうのはなんか根本的に違うんじゃないの、と思ってしまうわけです。ゴスペルの一番大事なことは、神をキリストを称える曲を歌う、ってことなんじゃないでしょうか。

うちの妻がたまたま持っていたCDでマイケル・スミスの "GO WEST YOUNG MAN" というのがあるんですが、昔好きだったとか言って聞かされたら、実はこのアーティスト、ゴスペルミュージシャンだった、ということがライナーノーツでわかったんです。曲は完全にポップ、そしてこのアーティスト、マイケル・スミスは白人です。先に言ったようないわゆるゴスペルとは音楽の雰囲気は全然違うんですが、このアーティストは白人ゴスペルシンガーとしてアメリカで活躍しているということが書かれています。
実際、このCDの詩を読んでみると、基本的に宗教色を持っていることがよく分かります。Loveといっても、これは明らかに男女間の愛ではないわけですね。おまけに9曲目には "Agnus Dei" という曲があったりします。アメリカには、こういったポップ調の宗教曲がヒットソングとして成り立つだけの宗教的土壌があるわけです。
たまたま仕事の関係で知ったのですが、今楽器メーカーはアメリカの教会を楽器市場として注目しています。一度、アメリカの教会事情についていろいろ話を聞いていろいろ驚かされました。アメリカの教会では、教会の持ち物として何千人も収容できるようなホールがアメリカ中にたくさんあるというのです。もちろん礼拝とかに使うのでしょうが、ホールには様々な近代的な設備が整えられており、PAなんかもしっかりしている。そしてこれらのホールでは、古い宗教曲を聖歌隊が歌うかと思いきや、ドラムセットやシンセサイザーが並べられていて、教会お抱えのミュージシャンがロックに乗せて宗教曲を歌うわけです。親子2代にわたって教会で音楽演奏をしてきた、という親子のインタビューなんかもありました。さきほどのゴスペルアーティストなんかも、もしかしたら全米縦断教会コンサートツアーなんていうのをやっているかもしれませんね。
アメリカで熱心に教会に通っている人がどれだけいるか私は分かりませんが、これだけの話を聞くと十分アメリカでは宗教に関する文化が根づいているようだし、しかもそれでいて讃美歌をロックに変えてしまうくらいの変化を平気でやってしまうのがいかにもアメリカ的です。
日本人の私が欧米人にとってのキリスト教の感覚を理解するのは難しいことですし、だからこそ、ゴスペルが彼らにとってどのような意味を持つか考えたとき、日本で流行っているゴスペルというのがほんとにこんなんでいいのかな、と疑問に思えてしまうのです。



inserted by FC2 system