オペラ声とアンサンブル声(00/1/23)


今日はムジカチェレステで一緒に歌っているKさんがやっている別のアンサンブルのコンサートに行ってきました。
このアンサンブルは女声3人によるものですが、3人とも浜松声楽研究会に属していて、多分その場にて知り合い、発足したグループなのでしょう。3人ともプロというわけではないですが(多分)、声楽研究会のオペラで役をバリバリにこなす、ハイアマチュアだといえます。
ここでは別にこのコンサートの批評をしようというわけではありません。このコンサートは前半に比較的アンサンブル色の濃い宗教曲を、そして後半はお家芸であるオペラの重唱というプログラムになっていましたが、あらためて、双方に要求される声の能力の方向性の違いというのをちょっと感じたのです。
アンサンブル、しかも小人数になればなるほど、音質の均質さ、ピッチの確かさが要求されます。もちろん、曲の性格によっては劇的な感じが必要な場合もありますけど、やっぱりハモってなきゃ声のアンサンブルなんて魅力半減です。ハモるためには、まず余計なビブラートをなくすこと、ピッチを安定させるために息の流れを一定にすること、そして各パートの音色を統一すること、などが考えられますが、これらってオペラ的なドラマチック性をスポイルする要素になり兼ねないんですね。
何度か、外国のアンサンブルグループのコンサートを聞いたことがありますが、なんというか自分たちのハモリの精度と全くけたが違うというのが実感できます。CDだとうまいのが当たり前に感じてしまいますが、コンサートで実物を聴くとなんでここまでハモるの、と本当に驚嘆してしまいます。もちろん、彼らの演奏は上のようなことが十分身についているわけですが、いわゆるオペラの世界とは全く別次元の歌い方をしていることにも気付きます。プロの声楽家ですから声がビンビンに鳴ることはもちろんなのですが、客席で聞いていると全然無理をしてないように見え、場合によっては口先だけで歌っているようにも見えます。
翻って、オペラって全身で振り絞って歌っている感じがします。そして専門家が何て言おうと、やっぱりオペラはまず声量じゃないでしょうか。3管4管のオケを相手に(もちろん、オケがフルに鳴ってたら勝てないだろうけど)、しかも2000人とか3000人のキャパのホールで自分の声を聞かせようと思ったら最低限、必要な音量というのがあるはずです。それに、オペラの歌手はみんなソリストであり、自分の声を際立たせるために必要なビブラートとか、楽譜に束縛されない自由な表現、というのが彼らの命といっても過言ではないでしょう。やはり、それはアンサンブルで必要とされる能力とはかなり違うものと思えるのです。

最初に紹介したコンサートは、前半でのアンサンブルによる緊張感と、後半のオペラのためのダイナミックさがよい対比をなしていたように思いますが、前半に比べると後半のほうが圧倒的に音量が大きかったし、演奏者ものびのび歌っていたように思います。
一般に合唱団にいる人たちは、自分たちの理想としてオペラ歌手を指向している、と感じることがあります。もちろん、同じく声の芸術なのですから、基本が同じなのは確かです。しかしボイトレとかやっても、どの先生もオペラをやっているものだからイタリアオペラのアリアとか歌わされたりして、なかなかアンサンブルの中のピッチの合わせ方みたいなところまで言及してくれる先生は少ないのではないでしょうか。どのジャンルの音楽でもアンサンブル的な世界はちょっとマニアックなイメージがあって、どちらかというと一般的には派手な音楽のほうが受けがよいものです。歌を歌う人がオペラのソリストを夢見ることが多いのも仕方のないことです。
しかし、合唱というのはオペラよりはアンサンブルに近い能力を必要とされます。もっと多くの合唱人に、小人数アンサンブルのスリリングな楽しさを味わって欲しいし、またそういう音楽を聴いて究極のハモリを体験して欲しいと思います。合唱の目指す音楽が、そういった精緻なハーモニーになっていけば、日本でももっともっと素晴らしい声楽アンサンブルグループが出てくるかもしれません。



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