ノストラダムスの予言集(99/12/19)


今年1999年と言えば、巷を騒がせたのはノストラダムスの予言でしょう。
五島勉氏の「ノストラダムスの大予言」は、まさか、と思いながらも、1999年という近未来のことを言っていることもあって、その当時は随分流行ったはずです。内容は、今でこそ笑いの種にしかならないですが、当時小学生だった私にはやけにリアルに感じたものです。1999年は自分は33才だから、きっと結婚して子供とかがいて、いいパパになってるんだろうなあ、と小学生なりに自分の将来を思い描いて、そこにおこるであろう惨劇を想像しながら、ちょっとブルーになっていたことを思い出します。結果的にはまだ子供はいませんけど。
そう考えると、多くの人たちに精神的苦痛を与えたという意味で五島勉氏の罪はでかいと思いませんか?これで随分儲けたはずですし。

さて、そんな自分の20年来の悩みを解決するために、いったいノストラダムスとは何者だったのか?そしてこの予言集とはいったいどんなものだったのか、ちょっと調べてみたのです。
といってもそんなにたいしたことをしたわけでなくて、インターネットでノストラダムスをちょっと検索してみただけなのですが、さすがに出るわ出るわ、たくさんのページが見つかりました。その中のノストラダムスを専用に扱っているホームページをいくつか読んでみました。内容としては、ひたすらノストラダムスの情報を集めそれを公開することを主眼としているもの、様々なノストラダムスの解釈について突っ込みを入れているもの、それから自分なりの新しい解釈を発表しているものなど、色々な方向からせめられています。しかし、どこにでもオタクはいるものですねえ。ノストラダムスを解釈するために、聖書や世界中の神話まで研究しちゃったりしている力作ページなど見ると、科学読み物としては十分に楽しめるし、本当に脱帽ものです。
これらのページの中の情報で、最近岩波書店から「ノストラダムス予言集」という本が出版されたことを知りました。そこで、岩波書店のページから早速この本を購入してしまいました。私も好きですね。

さて、ノストラダムスの予言集の最も大きな問題は、正確なものが残っていない、ということらしいのです。ノストラダムスの生きている間にもどんどん新しい詩が追加されて何回も版が重ねられており、死後数年の間にもいくつかの版がありますが、死んでから追加された詩はノストラダムスのものかどうかあやしいものもあるらしい。それに、実際現在に残っているノストラダムスの詩は、すでに多くの人に校訂されて残っているものであり、五島勉よろしく、多くの校訂者、注解者が勝手に解釈をしてしまったりとか、ノストラダムスが意図的に古典的なフランス語を使ったため現代的にするために勝手にスペルが変えられたりとかで、原典をより正確に再現することがいまだに困難であるという状況らしいのです。
そして、興味本位でなく学術的にノストラダムスの詩を校訂する作業がブランダムールというオタワ大学の教授により、ほとんど初めて行なわれ、その成果が1996年に本になり出版されました。そして、岩波書店のこの本は、日本のフランス文学研究家がブランダムールの内容をもとに詩の日本語訳と解説をした、日本において初めての「まともな」ノストラダムスの本と言えるものです。この本がまさに今年1999年に出版されたわけです(そういう意味ではしたたかな商魂も垣間見れるけど)。
まず、この詩集の構造ですが、一つの巻に詩が百編、最終的には10巻にもなったそうです(先ほど言ったように全てがノストラダムスのものかは疑わしい)。ただこの本では初版の4巻分(353編の詩)しか扱っていません。
一つの詩は4行で書かれていますが、すべて韻を踏んでおり、まず文学的にも十分価値の高いものと考えられています。
この編者のスタンスは明確です。ノストラダムスに未来を透視できる超能力があるなどさらさら考えておらず、ノストラダムスが聞き知った過去の事件をネタに未来で起こるであろう出来事を装って書いている、というものです。また当時、詩人と予言者とは分かちがたい関係でもあったと言われ、もともと占星術や詩にたけていたノストラダムスが、予言という形で自分の詩を発表した、ということにすぎないというのです。
確かに、今のように科学が発達していない当時、今から見ればはるかに科学的根拠など必要がなかったことは想像に難くなく、詩人としての自分の力を誇示したいがため、自分の空想の産物をひたすら詩にしていったノストラダムスの創作はそんなに不思議なものでもありません。空想の産物を形にすることが芸術なら、確かにノストラダムスの詩集も立派に芸術です。
だいいち、本当に未来のことを予見できていたなら、もっともっと全然別の生き方をしているはずじゃないでしょうか?医者の博士号を得ながら、占星術や詩をたしなみ、予言集以外にも暦や年間行事を収めた1年分の詩集とかを書くなど、その生涯からは学識の高かった一人の文化人としてのノストラダムスしか見えてきません。ちなみにノストラダムスは1503年、フランスのプロヴァンス地方で生まれ、1566年に没しています。
まさか、自分の著作が世紀末の異国の地である日本にて、こんなに騒がれようとはノストラダムス自身も夢にも思わなかったことでしょう。どんな形であれ、自分の名が後世にこれほど広まったことは悪い気はしないと思いますけどね。

暗く陰惨な内容が多いノストラダムスの予言集ですが、ちょっとSFちっくでもあり、これに曲をつけたら歌いたいと思う人はいるでしょうか?(真面目に取らないように^^;)




inserted by FC2 system