芥川賞と直木賞(99/1/24)


最近また恒例の芥川賞と直木賞の発表がありました。直木賞は宮部みゆき、芥川賞は現役京大生の平野啓一郎、ということです。
芥川賞は結構興味があって、以前も受賞作を何回か単行本で買って読んだことがあります。特に最近は女性作家の受賞が多く、ファンタジー性のあるものに結構共感を抱いていました。ただ、今回の受賞作はいろいろな評を見るに、ちょっと好みでなさそうなので読まないとは思います。
直木賞のほうは賞自体の性格性もあり、すでに社会的ステータスを確立した作家が受賞することが多いようです。つまり、すでに市場で評価されたものを後追いで評価するような感じがあります。ですから、内容も文章力も手馴れていて、読み手を引き込む力というのが十分感じられます。そう言う意味では大衆文芸だからといって、芥川賞との優劣を云々するというのは不適当でありましょう。
そう考えると、この芥川賞と直木賞の違いについていろいろと考えさせられてしまいます。
これは日本人の特性なのかもしれませんが、我々は、様々な文化に関して、芸術性の高いものと大衆性の強いものを分けて考える習性があるものなのかもしれません。 音楽などはもっと明白で、ポピュラー音楽とクラシック音楽(あるいはジャズ)という対比がすぐに考えられます。文学と違い、楽しみ方や対象年齢まできちんと整理され、お互いが独自の市場を守っています。相互の頑ななファンは、別のほうをきちんと評価しようとさえしません。もちろん、芥川賞と聞いて、お高くとまった頭でっかちな文芸、なんて言って敬遠する人も多いことでしょうし、すぐに学校の国語の授業を思い起こさせるような強権的なアカデミズムを感じてしまう人もいるかもしれません。
しかし、昨今の芥川受賞作を見ると、純文学とはなんぞや?という疑問が沸いてくるのも確かです。
例えばロックバンドのボーカリストでもある辻仁成氏の作品は、確かにエンターテインメントとは言えないまでも、きわめて俗っぽい青春小説的な装いを持っています。もちろん、その作品世界は氏の独特な個性が形成されていて、全く魅力的なものです。実は氏の芥川賞受賞作は読んでいないのですが、この受賞は芥川賞自体の幅が非常に広がっていることを示しているようにも思えます。また、過去の芥川賞受賞者が今では直木賞作家並みの活躍をしているような場合も見受けられます。
このように芸術的と呼ばれている様々なジャンルで、最近ではそのボーダーラインが曖昧になっているように感じます。 音楽で言えば、クラシック系の作曲家が作ったテレビ音楽やCM音楽はほとんどポピュラー的なものもあるし、坂本龍一や久石譲のようなポピュラー出身(実はクラシック出身とも言えるけど)の音楽家が派手なオーケストラ音楽を書いていたりします。また、大衆的なものの象徴であるような民族音楽が、芸術的に昇華されるようなパターンも見受けられます。
私はこのようにボーダーラインを破壊して活動する人たち、に非常に好感を持ち、また期待しています。批判されやすい人たちでもありますが、新しいことを始められるパワーは全ての進歩の根源だと思うからです。 そう言う意味では、芥川賞も純文学っぽくない、ノンジャンル的な、もっともっと怪しい作品を密かに期待しているのです。


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