年末には「ロ短調ミサ」を聴こう(03/12/28)


今年最後のコンサートとして、岐阜のサラマンカホールで合唱団MIWOのバッハ「ロ短調ミサ」を聴いてきました。ご存知の通り、MIWOといえば日本有数のレベルの合唱団なわけですが、そこがバッハのロ短調、指揮は大谷氏、そしてソリスト陣もバッハ演奏の第一人者ばかりを集めたコンサートとあって、これは是非聞こうと思っていたのです。

ロ短調ミサは浜松バッハ研究会の演奏会で歌った他、同じくバッハ研のドイツ演奏旅行で2回も演奏して、このような大作でありながら、私が随分歌ったと思える曲の一つです。マタイやヨハネ受難曲とは違い、合唱の出番も多く、これぞ合唱曲の最高峰といっても過言ではないでしょう。演奏時間も長く歌う方も聴く方も相当な気合が必要ですが、ミサということもあり音楽のコンセプトが明確で、親しみやすさを兼ね備えた音楽であるとも言えます。
個人的には、"Credo"の冒頭の曲が結構好き。比較的音価の長い主題が対位法的に展開されますが、それを支える通奏低音が4分音符で軽快にリズムを刻みます。音楽全体の軽さと、主題の息の長さの絡み合いがこの曲の気持ち良さの最も大きな要因。またこの四分音符の刻みは順次進行が多く、これだけでスケール感、和音感が作られていて、この上に多くの声部がきちんと配置されていることに、素晴らしい数理的秩序が感じられ、私の作曲家魂を刺激させられます。
もちろん、この曲を特徴付ける冒頭の"Kyrie"も非常に印象的な音楽。バロック的雰囲気がふんだんに現れ、このアーティキュレーションをどう料理するかで、バッハ演奏に対する演奏者の考えがほぼわかってしまうはず。それだけに歌う方も気が抜けません。
実は、個人的にロ短調ミサの中で嫌いな曲は"Sanctus"だったりします。歌が難しく、自分でもいまひとつうまく歌えないのが一番大きな理由なんですが、パッと聞いても、どうもバッハの曲の中では凡庸な音楽に感じてしまうのも確か。もちろん、バッハ研究家でもない私が適当なことは言えませんが、バッハの楽想としては、どうもチープな印象を持ちます。
しかし、その後のドッペルによる"Osanna"は、歌い手としては結構好きな曲。実は私、バッハのメリスマを歌うのが大好きだったりします。特に、この"Osanna"のメリスマは私のツボにはまりました。(どうしてもツボにはまらないメリスマというのがあるのです)
だいたい合唱人は、バッハのメリスマを苦手とする(というよりはたいてい嫌いと言う)人が結構多いのです。特に高声は鳴りの遅い人が多く、こういう人はメリスマとそうでないところで極端に音量差があります。また、メリスマでテンポをキープすることと、旋律を情感を込めて歌うときのリズム感とは相容れないものが多いわけで、バッハが苦手と言うのはさもありなんという感じです。しかし、私の場合、バッハをきちんと歌うというのは、ソルフェージュ力の頂点を極めるような達成感があり、そういう征服欲みたいなものが、メリスマ歌いに燃えてしまう原因なのかもしれません。

さて、本日聴いたMIWOの演奏ですが、やはり素晴らしかったです。均整の取れた音色、よく制御されたフレージング、何といっても指揮者のメリハリの利いた音楽作りが伺え、巷のバッハ演奏の中でも飛びぬけて知的なアプローチがされていたと思います。
ただし、音色や音程、リズムなどをきちんと制御しようとするあまり、全体的に抑制されたトーンに覆われ、部分的には逆に明確さを欠いてしまった感じがします。
実は冒頭4小節で、その抑制ぶりにちょっと驚いてしまい、最後までその印象は変わりませんでした。個人的には、メリスマなどは少しくらい音色が汚くなっても、もう少し攻撃的な歌い方をしていかないと、オケ付きミサ曲のスケール感に絶えうる音楽にならないような気がします。もちろん、このあたりはいろいろな考え方があるかと思いますけど。
ソリストは4人ともとても良かったです(カウンターテナーの上杉さん、このとき聴いたんですが、今では引っ張りだこなんですね)。MIWOぐらいじゃないと呼べないよね、このメンツは。


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