SF映画二つ(03/12/13)


以前、SF映画考という談話で、「惑星ソラリス」の映画の紹介をしましたが、もう二つほど私が好きなSF映画を紹介しましょう。

一つは「未来惑星ザルドス」という映画。ショーン・コネリー主演ですが、もう30年近く前に作られた映画です(監督:ジョン・ブアマン、1974年アメリカ)。
正直に言えば、現在の洗練されたCGによるSFX技術に見慣れた我々から見ると、30年前のSF映画というのはかなりちゃちに感じてしまいます。SF的場面でのサイケさとチープさが時代を感じさせ、またいまどきのハリウッド的盛り上げ方にも欠けるので、一般ウケはしないかもしれません。
それでも、私にとってのこの映画の面白さとは、そこで設定された世界観と細かな部分のリアリティにあります。題名は「未来惑星」と書いてありますが、これは邦題のみで、原題は「Zardoz」。別に違う惑星の物語でなく、数百年後の地球が舞台です。一部の科学者が作った不老不死のコミュニティが、世界を支配しているという設定。しかしそのコミュニティ、ボルテックスに住む不老不死の人々が住む社会は、まさにそれ故に病んでいました。
不老不死のコミュニティの閉ざされた社会では、精神的に同化できない人々に対して制裁を加えます。この不老不死コミュニティにおける刑罰とは「加齢」です。それでも不死なので死ぬことは出来ず、重罰を受けたものは憐れな老人として別の場所に隔離されているのです。そして、なんとこの不老不死システムを開発した当人も、間違ったモノを作ったと考え、このシステムを壊そうとして罪人にされてしまい、ほとんど寝たきりの老人として隔離されています。
もう一つ、面白い不老不死社会の一つの現象は、無気力人間です。長い間死ぬことも出来ずに生きていたため、逆に生きる気力を失ってしまい、一日中ぼーっと立っているだけの人間がこういう社会に生まれてしまうという設定なのです。
物語のあらすじは、ボルテックス外に住むゼッド(ショーン・コネリー)がこのコミュニティに忍び込み、この社会の奇妙さを暴き出し、最後にはこの不老不死システムを破壊する、というもの。「死」を望んでいたボルテックスの人々が、銃を持つ人々に向かって"Kill me!" と叫びながら、ばたばたと死んでいくラストシーンはもう壮絶の一語に尽きます。死ぬことが喜びになってしまうこの逆説的な状況に対して、バックに流れるベートーヴェンの第7番第2楽章の音楽があまりに良く似合っています。
手塚治虫の「火の鳥」等と同様、不老不死社会の本当の気味悪さ、恐ろしさを描いたといえますが、それでも、人は年を取りたくない、死にたくないと思い続ける悲しい存在でもあるわけで、この矛盾に対してしばしの間、哲学的に考えさせられる気分にさせてくれるのがこの映画なのです。

さて、もう一つは「未来世紀ブラジル」。なんだか、題名が似ていて笑えるんですが、この「未来世紀」も邦題のみで原題は「ブラジル」なのです。どうも、日本でSF映画を売り出そうとするとき、こういう接頭語を付けないとヒットしないというようなジンクスでもあるのかもしれませんね。
こっちは全編シリアスさがにじんでいるザルドスと違って、ハチャメチャなブラックコメディタッチ。監督はテリー・ギリアム、1985年のイギリス映画。
この映画も、世界観の設定に、現在の我々の社会のある方向性を極端に振って、その奇妙さを焙り出そうとしようという意図が感じられ、その意味においてはソラリスと近いものがあるかもしれません。この映画で強調されている世界観というのは、徹底された管理社会という側面です。全ての仕事が書類によって管理され、もともとは人間が作ったであろうそのシステムに誰もが逆らえない状況になっています。人の心が介在しない書類仕事だからこそ、ちょっとしたミスが大きな大惨事にまで発展してしまう、というのは確かに笑えない話ではあります。
それからこの映画の見所は、細かいところにわたって未来であるところの(?)特殊な風俗に対する監督のイマジネーションが発揮されているところ。例えばオバサンがたの興味は美容整形で、とんでもない美容法が次々と現れたり、テロのあまりの多さに、人々は何が爆発しても全く何事もないかのように行動していたり、等など。何といっても、ここで描かれる社会は少なくとも未来とはとても思えない、奇妙なアイテムがいっぱいです。家の中にはいろいろな機能を持つダクト(パイプ)が張り巡らされていたり、タイプライタともコンピュータとも付かないアナクロチックな小物が仕事の道具だったり。また、女性のファッションの一つとして、頭に靴をかぶっていたりとか。このシュールなアート感覚だけでもこの映画は一見の価値があるかも。
結末は救いようのないオチで終わります。これは、ハッピーエンドばかりのアメリカ映画に侵されている人には耐えられないかもしれません。しかし、このとてつもなくブラックな終わりかたこそ、ヨーロピアンな一筋縄で行かないテーストを感じ、私には小気味良く感じます。タイトルの「ブラジル」とはこの映画のテーマソングで、音楽の妙な明るさがこのブラックな設定と見事なコントラストを成しているのです。(まるで、ザルドスとは逆さまの関係みたい)

この二つ、最近DVDを購入しました。製作側の細かいこだわりはやっぱり何度も見なくては気が付かないこともあると思うので、暇をみて繰り返し見たいと思っています。


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