アカペラアレンジしよう その2(03/8/31)


前回言った「難易度の設定」という考えの裏には、アカペラアレンジで自分自身のオリジナリティを徹底的に発揮させようとする気持ちよりも、歌う側の要求にしっかり答えた楽譜を職人的に作る、どちらかと言うとビジネスライクな態度が望まれるのだと感じるのです。もちろん、オリジナリティを否定するわけではないのですが、そんな楽譜の中にも少しだけ自分らしいところを入れておくぐらいの茶目っ気で十分かなあ、と思います。
そういう意味では、本来、職人的な実力を持つ編曲家と、芸術を探求したいと考える作曲家とは、その精神的スタンスとして方向性が全く違うと言っていいのです。これは音楽的な実力の問題ではありませんし、どちらがより音楽家として立派かといった結論を出すものでもありません。音楽に関わる我々が、それぞれ判断し、必要な人に必要な仕事を頼めばいいわけです。単に、作曲家として名が売れているから、という理由で合唱アレンジの委嘱などするのは、もしかしたら危険なことなのかもしれません。

さて、難易度の設定、の次には、具体的な「難易度の調整」方法について考えてみます。
例えば、アカペラでアンサンブルする場合、どこかにアンサンブルを修復する(調整できる)場所を仕込んでおく、というのは、意外と大切なことだと思っています。
修復の最も手っ取り早い方法は、ユニゾンか、どこかのパートソロを曲中に入れるということです。お分かりかと思いますが、アレンジ物に限らず、アカペラ合唱曲というのは、例えば曲の始めがユニゾンであるとか、フレーズ最初の弱起が全パート同じ音になっていたりします。これは、一つの音から、ハーモニーの拡がりが始まるという音楽的な効果があるのと同時に、それまでアンサンブルにあった若干のピッチやテンポのずれを修正できる箇所にもなるのです。
たまに、四六時中、全てのパートで、全ての和音構成音を歌ってしまうような、力の入ったアレンジを見かけたりしますが、アレンジに苦労したことはわかるけど、もう少し肩の力を落として欲しいなあなんて思います。そのためには、和音が全部響かないとか、旋律一本だけとか、そういう箇所を部分的に作ってあげたほうが、アンサンブル側にも易しいし、曲のメリハリにもつながって良いように思います。

もう一つは、メロディを誰が歌うかという点。
あるパートがずっとメロディを歌う場合、音取りレベルでの練習では、そのパートだけが異常に負荷が軽くなってしまうわけです。以前のアカペラアレンジのステージのとき、ソプラノは全部メロディで他のパートがやたらに難しく、ソプラノの練習時のモチベーションが下がったように感じられたことがありました。
しかし、そうは言っても、最上声部がメロディを歌うのはアレンジ上当然で、わざとそうしない場合、かなり気を使ってアレンジする必要があります。これはむしろ少人数用のアカペラ編曲の方が有利かもしれません。人の顔が見えるから、今度はこの人にメロディを歌ってもらおう、みたいな感じにできます。30人を超えるような大合唱団となると、ソプラノ以外がメロディをとる場合、メロディ以外のパートはハミングなどのボカリーズに徹することが多くなるでしょう。このあたりが落としどころですが、たまに非常にうまく処理しているアレンジなどもあるので、人のアレンジを見ていろいろと研究してみたいものです。

細かい技術的なことをもう一つ書いてみます。
それは音程の跳躍です。これはアレンジに限らない話なのですが、特に難易度設定から、難易度制御に関心を持たないと、オニのように難しいフレーズを作ってしまいかねません。
原則的に言えば、メロディパート以外は、メロディを食わないようにあまり極端な音程跳躍がないように作りたいものです。基本はなるべく順次進行になるようにしたいです。特に、音価が短いほど音程跳躍は小さくすべきです。ある程度長い音価の音符なら、多少の跳躍は許されるでしょう。
これを確認するのはそれほど難しくありません。編曲をした当人が、一度一人で全パートを歌ってみるのです。たまに、和音のよさだけで、あまりに歌いにくいフレーズを作ってしまったことに後で気付くことがありますので。


inserted by FC2 system