今度、マルトノ^^;(03/6/7)


浜松の楽器博物館主催によるレクチャーコンサートというのが度々行われています。
2回にわたって、電子楽器をフューチャーしたコンサートが開かれました。4月26日に竹内正実さんによるテルミンのレクチャーコンサート。もちろん、聴きにいきました。
そして本日6月7日、ハラダタカシさんによるオンド・マルトノのコンサートがあり、またまた聴きに行ってきました。

テルミンに関しては、以前も談話で触れました。テルミンは最近映画になったり、竹内さんがテレビに出たりと、露出度が高くなったので知る人も増えていますが、古くからクラシック世界で割りと認知され、しかもたくさんの曲が書かれている電子楽器といえば、やはりオンド・マルトノです。
オンド・マルトノと言えば、なんといってもメシアンのトゥーランガリラ交響曲。有名な曲であるけど、何しろやたらに曲が長く全部をまともに聴くことは滅多にありませんが、とりあえず有名な第五楽章ではふんだんにオンド・マルトノの音を楽しむことができます。
もちろん、これ以外にも多くのオンド・マルトノ用の曲が書かれているわけですが、やはり20世紀以降の音楽、しかも電子楽器ということで、割と前衛的、抽象的な作品が多いのも事実。今回のレクチャーでも新作初演を含み、ミヨー、ジョリヴェ、メシアンとフランスの渋どころの音楽がたくさん演奏されました。

さて、オンド・マルトノとはどんな楽器でしょうか。
一見見たところ鍵盤が付いていて、木製のオルガンのようです。しかし、オンド・マルトノの大きな特徴は、音の出口、すなわちスピーカにあります。何やら怪しい形をしたスピーカが並んでいて、どちらかというとそちらのほうに目が奪われます。万年筆のペン先のような形をしたパルムというスピーカは特にオンド・マルトノを象徴する形だと言えるでしょう。
実のところ、今日の演奏を聴いた限りでは演奏の仕方を正しく理解することが出来ませんでした。テルミンのように見ればすぐわかる単純さはないのですが、大まかに言えば右手でピッチ操作、左手で音量操作をするということになるようです。そういう意味ではテルミンや、弦楽器などと同じ感覚なのかもしれません。
右手のピッチ操作は、鍵盤と指にはめるリボンによって行います。しかし、鍵盤とリボンのどちらのピッチが優先されるか、演奏見ただけでは良くわからず。リボンを動かすことによって、ピッチを自由に上下させることが出来、オンド・マルトノ特有のポルタメント音を奏でることができます。
左手のほうは、これはもうスイッチ操作です。鍵盤の左下側に左手で操作するための操作子が並んでいます。ここでは、音量だけでなく、どのスピーカに出すかも指定でき、各スピーカがそれぞれ特徴のある音を出すので、いわばパイプオルガンのストップのような役割で音色を変化させることも出来るようです。

オンド・マルトノがテルミンと大きく違うのは、もっと「音楽」を奏でるということに真摯に取り組んだという点にあるかもしれません。テルミンがアメリカで一儲けしたのとは対照的に、オンド・マルトノを作ったモーリス・マルトノは、数多のライセンス契約の申し出を断り、自ら改良を重ねながらひたすら少量生産で楽器を作り続けました。
そんなエピソードからわかるように、オンド・マルトノは演奏法から音の出口までこだわったトータルな意味での「楽器」を目指していたと言えると思います。確かに、オンド・マルトノの音色は本当に美しいのです。この世ではない場所から鳴り響いてくるような、本当に幻想的な音です。楽器としての完成度という意味ではテルミンをはるかに上回ることは確かでしょう。
しかし、その徹底ぶりが災いしたのか、楽器の数そのものが少なく、また演奏も難しいことから、この楽器が世の中に広まっているとは言い難いのが現状でしょう。

本日は、まだ音大在学中の若き作曲家、金井勇さんによる新曲初演もありました。
確かに希少価値の高い楽器のために作曲するというのは、心惹かれるものはあります。自分ならではの新しい表現法を開拓したいという思いもあるでしょう。ただはっきり言わせてもらえば、私にはオンド・マルトノの音色の多彩さ、独特な表現方法がただ羅列されているようにしか思われず、作品としてはいかがなものか、私には判断しかねます。
それにハラダさんが弾き続けてくれないことには、この作品もなかなか日の目を見ることはないでしょう。希少価値の高い楽器と言うことは、演奏者も少ないわけで、作曲家にとっては決して好まれる状況ではないはず。他人事とは思えないこともついつい考えてしまいました。


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