ヴォカリーズの表記法(03/4/12)


日本の作曲家が良く使うヴォカリーズの表記法で、個人的にどうも気に入らないのが、B.O. とか、B.F. ってヤツ。
B.O.などは、良くわからないふりをして「ボー」と歌うのはお決まりのギャグですが^^;、それでもたいてい誰かは知らなくて、指揮者が、「じゃあ、これはウーにしましょう」とか一度は言わなくてはいけません。
私も昔、この記号に初めて遭遇したときに、「これはオープンハミングだよ」とか言われて、ハミングって口を閉じるんじゃないのか?口を開けたハミングとは、そりゃ一体何?などと思ったものです。

だいたい私がなぜこの表記が気に入らないかというと、この略語のオリジナルはフランス語だからです。つまり、日本人の作曲家が自分の指定したいヴォカリーズの音色を、フランス語を使って指定するということに疑問を感じるのです。もちろん、言葉どおりに受け取られてしまうと、Allegro とか rit. とかの用語はイタリア語じゃないか、と突っ込む人もいるかと思いますが、もはやこれらの言葉はイタリア語を超えた記号としてのレベルに達していると私は考えます。
少なくとも、私には世界的にこのフランス語の表記が一般であるとは思えません。どうも日本の文化人というのは不必要に表記を難しくしてしまうような、そういう傾向を持っている気がしてなりません。
もちろん、どうしてもここで指定したいヴォカリーズはこの言葉でないと通じないという主張もあるでしょう。しかし、それほどまでに一般合唱団員がその微妙なフィーリングを理解してくれているのか考えたことがあるでしょうか。楽譜は、作曲家と演奏家のコミュニケーションのための道具です。そしてそのコミュニケーションを成り立たせるためには、お互いが理解しあえる言葉を使うべきなのです。

さて、それでは、合唱曲に使われるようなヴォカリーズの表記法には、実際どんなものがあるでしょう。
もちろん、上で言ったように日本人なら日本語を使うというのがある意味ベストなわけで、例えば多くの作曲家は「ルルル」「ラララ」などはカタカナを使って書くことは多いようです。
しかし、ヴォカリーズを全て日本語で表記するのには実は結構困難が伴います。例えば、ハミングを書くときはどうするか。いきなりそこで挫折します。楽譜に「ンー」とか書かれていても、これをハミングだとは合唱団員は思ってくれないでしょうし。もちろん、「ムー」では、もっと違う音が出てしまうでしょう。
普通の母音であっても、日本語で書くと、どうも違ったニュアンスが生まれてしまいます。例えば、「ウー、ウー」とか楽譜に書かれたらどうでしょう。何やら不気味な雰囲気で唸りながら歌わなくてはいけないような、そんな気持ちにさせられてしまいます。これは母国語ゆえに、その表記に発音以上の何らかのイメージがついてしまっているからでしょう。
そういう意味では、ヴォカリーズの指定は単なる発音を示すような表記が最も適していると思います。それを最も端的に表現するには発音記号というのもアリでしょうが、演奏者にとってもう一つ馴染みは薄いかもしれません。
ちなみに私の場合、この考えを私なりに実践した結果、現在ではなるべく単純な小文字のアルファベットで書くようにしています。ハミングは「m-」、母音は「a-, o-, u-」といった感じ。ルルルなども、日本語のルルルの感じが欲しい場合を除いては、「lu lu lu」と書きます。
もう一つは、いちおう世界的に通じるはずの英語で書くというのもありでしょう。ハミングなら「Hum.-」、母音は「Ah-, Oh-」、ただし、「ウー」と歌って欲しいときは英語的には「Oo-」と書いたりしますが、この感覚は英語圏でないといまいち通じない感じがします。

もちろん、上記の方法をいろいろ取り混ぜてもいいのかもしれません。しかし、それらの表記が演奏者に伝わると思っているのは作曲家だけ、というのでは情けない。実際には、本人が思っているより常識というのは定まっていないものです。作曲家のアウトプットである楽譜というものを、どういったレベルのものと捉えるかによって結論は変わってきますが、やっぱり私としてはコミュニケーションツールであるという側面を重視して、ある程度の表記の統一は考えるべきだと思います。
現状、日本の作曲家の楽譜表記はそこまでケアされているものは少ない気がします。もちろん、こういったことを気にする態度からは、フランス語表記など思いもよらないはずなんですが・・・。



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