進化心理学の面白さ(03/3/29)


進化心理学がなぜ、私にとって面白いのか考えてみると、やはりそのアプローチがとても科学的に感ずるからということなのだと思います。一般に心理学というと、どうしても非科学的な印象が拭えません。また、どうしても研究内容が、社会的な問題領域から発生しているように感じます。つまり、一般的に心理学者というのは精神科医であり、彼らの大きな仕事は精神病の患者を治療することなわけです。
私は別に精神病に興味があるわけではなくて、人の心がどのように出来ているのか知りたいのです。そういう意味で、この学問のアプローチは大変面白く感じるのです。

それでは、実際にこの進化心理学がどのような問題を扱っているのでしょうか。個人的に興味を感じたのは、人と人との連帯、そしてやはり男女間の問題です。
人間が他の動物と圧倒的に違うのは、人同士が連帯して行動することです。これによって、一人では出来なかった仕事が出来るようになり、結果的に他の動物を凌駕するほどの能力を手に入れることになったのです。
では、この連帯とは突き詰めればどんなものなのか。簡単に言えば、「あなたが助けてくれるなら私も助けましょう」という個人間の取り決めです。このような連帯がうまく出来るほど種として生き延びる確率が高くなります。従って、このような能力の高い遺伝子が人間に残るようになるのです。
しかし、ここに「ただ乗り問題」というものが生じます。
「あとで助けてあげるから、いま私を助けてくれ!」と誰かが言ったとします。それで、その人は助かりますが、後日、助けてあげた人が「この前助けてあげたから、いま私を助けてくれ!」と言ったとき、その人が助けなかったらどうなるでしょう。助けられなかった人は死んでしまい、以前助けられた人は生き残ります。つまり、人からは助けられるけど、自分からは助けないという人の方が、生存確率が高くなってしまいます。結果的には、そういう人たちばかりが生き残り、進化として相互に助け合おうとする遺伝子が残らなくなります。
人間が相互に助け合おうとする遺伝子が残っていくためには、このような「ただ乗り」な人を排除していかなくてはいけません。アクセルロッドという学者は、このただ乗り問題を解決するための次の3つの条件を考えました。
1.生物体が、同じ生物体に繰り返して出会うこと
2.自分が、過去に会ったことのある相手だと認めることができ、その者と知らないものとを区別できること
3.過去に会った相手が、そのとき、自分に対してどのようにふるまったかを思い出すことが出来ること
こんなことは、私たち人間にとっては当たり前のことです。だからこそ、「ただ乗り」を解決できるわけです。つまり、上記のことが満たされることによって、「ただ乗り」人間は社会から制裁を加えられます。逆に、人に恩を与えた人ほど、その報酬を高く受けることができるわけです。
しかし、上記の条件を満たすためには、たくさんの記憶量が必要になります。そのため、人の脳は大きくなり、たくさんの人の情報、そして過去の相手の振る舞いを記憶できるようになっていったのです。

これって、かなり興味深いですね。やはり人間の本性というのは、人との連携していくために、相手がどんな人間かを認識しそれを記憶しておく、ということにあるわけです。社会のためとか、倫理観に基づく社会的な行動規範はむしろ近代的な考え方で、本能的にそういうことを考えているわけではないのだと思います。
人間が噂話が好きなのは、そういった個人情報をやり取りし、判断基準を増やそうとする遺伝子に書かれたソフトウェアが起こしている行動だといいます。そして言語も、まず人同士の噂話を伝えるために生まれたとさえ言われているのです。
おっと、男女間の行動の話はまた後日ということで。



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