進化心理学(03/3/15)


人は誰しもアマチュア心理学者であると言われます。
普通はそれは、誰それがこんなことを考えてるとか、そういう日常社会を生きるための知恵とも言えるわけですが、学問としての心理学というのも、犯罪があったときとか、社会全体の傾向をさぐるときなどに、論者などが現れたりして、わりと私たちにはお馴染みのものです。
私も割りと心理学には興味があって、大学の教養過程でも心理学の講義を、朝一番のコマであるにも関わらず、楽しみにしていたものです。それで一頃はフロイトの精神分析入門なども読みました。ただし、フロイトの場合、一般に純粋に学問としての心理学というよりは、その後のシュールレアリズムのような芸術への影響の方が大きかったわけですが。

近頃は、この心理学もかなり科学的なアプローチがされているのです。
最近、「進化心理学入門」という本を読んで、非常に面白く感じたので、この紹介をしてみたいと思います。
進化心理学」とは、進化生物学認知心理学を組み合わせたものです。進化生物学とはいわゆるダーウィンの進化論による、遺伝子の突然変異と適者生存により生物が進化する、というやつです。認知心理学とは、心というものはコンピュータと同じであるという考え。これはちょっと馴染みがないかもしれませんが、心に中にはいくつかの情報を処理するためのモジュール化されたソフトウェアが組み込まれている、というのが認知心理学の考えなのです。
それでは、この二つを組み合わせるとどうなるか。
人間の心理の動きを探るためには、認知心理学でいうところの心のモジュールを発見して、そのモジュールの構造を示すことが必要です。そして、その心のモジュールを発見するには、人類が進化していく過程で、どのようなモジュールを獲得していったかを調べるのが早そうです。
人類の進化といっても、例えば文化的歴史が現れるここ1万年くらいの間では進化するには短すぎます。進化心理学では、人間の心が、人類がチンパンジーの系統と別れ独自に進化し始めた600万年前から、アフリカに住んでいた人類が世界各地に住み始めた10万年前くらいの間に完成されたと考えるのです。

さて、実際のところ、これは我々が今まで考えてきた心理学とは相当アプローチの違うものですが、しかし、非常に方向性がはっきりしており、科学的に納得がいきます。
私自身は、人の心がいわゆるコンピュータにおけるソフトウェアと同じだということは初めて知ったわけですが、なるほど本を読む限りはその通りだと思うようになりました。それは、心とは何か?という疑問にある程度答えられるものです。
私のような素人が「心」について考えると、人間の他の器官が極めて機能的であるのに、ものすごく曖昧な情念に支配されている心というものが機能的にうまく規定できずに、結局物質的なものではないものと考えがちです。挙句の果てには、人間の身体と、人間の心は別物で、まさに身体に心が宿っている、というように考えてしまいます。
しかし、情念に支配されているように見える心も、ではその情念とは何か、と考えると、自分自身が生き延びようとするソフトウェアに記述された意思であったり、自分の遺伝子を残そうと考える(要するに、美人に見とれたり、特定の人を愛したり、というような性的行動)意思の表れなわけです。一つの一つの人間の行動を読み解くと、複雑な人間心理の活動が、いくつかのソフトウェアモジュールの連携で生まれた結果であることが明らかになるのです。
こういう理論を聞いてなんとなく嫌悪感を感じてしまうのは、まさに情緒的反応であって、毎日ソフトウェアを書いている私にとっては、実に実に興味深いお話なのでした。



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