練習と本番の違い その2(03/1/18)


本番の打ち上げのときなどに
「本当にうちの合唱団って本番に強いですね」
などとスピーチをされる方がいますが、私としてはこういう発言を聞くと、ずいぶん冷めた目で、「じゃあ練習はなんだったんだよー」と思わず一人突っ込みを入れてしまいます。
本番が終わったあとで気分も高揚しているので、多少の自画自賛も許されるとは思いますし、指揮者ならリップサービスとしての側面もあるかもしれません。それにしても、私はこういう発言の裏に何かアマチュアリズムの象徴のようなものを感じてしまいます。

大体の場合、本番では練習で一番うまくいったときの8割くらいの出来であれば御の字だと思っています。アマチュアならばなおのこと。逆にプロなら、本番までにどのように自分の演奏の頂点を持っていけるか戦略的に対処する術を持っているはずです。そのような計算があってこそ、本番が最もうまくいったということがあり得るのだと思います。
一つの演奏会のために1年程度の月日を重ね、練習場で歌うという限られた状態で条件反射的に歌えるようになったとしても、本番の特殊事情をすぐに理解できるわけもなく、そこに練習と本番の違いというのが現れる隙が発生します。

前回、少人数ならこういったことが顕著だと言いましたが、上のような「本番に強い」発言は大体の場合、大合唱団(しかもオケ付き)であることが多いと感じます。言わば、本番ゆえの気分の高揚といった要素です。
それを決して否定的に感じているわけではないのですが、それでもこれまでの練習で丹念に作りこんできた音楽が、気分の高揚で吹き飛んでしまうのは悲しいものです。実際のところ、私とて人のことは言えないんですけど・・・。
オケ伴の場合など、本番前の数回のオケ合わせで気分がだんだん高まり、そして本番ではオケに負けじと大声を張り上げてしまうというのがよくあるパターンじゃないでしょうか。

そう考えると、アマチュア合唱って所詮、小心者の集まりなんだなあ、と感じます。
少人数だと、間違えちゃいけないと思って、フレーズの入りが慎重になってしまったりして、音のキレが無くなってきます。ところが、大人数だと気分も大きくなって、好き放題やらかしてしまいます。
恐らく、こういう要素がどれだけ減っていくか、というのがより次元の高い演奏への道筋だと思います。良い演奏のために、呼吸、発声、フレージング、その他もろもろの技術的部分を鍛えるのは当たり前のことですが、その一方本番で冷静さを失わないための精神的な鍛錬もまた、良い演奏のために必要なことです。

これに対しては良策はありません。よくオリンピック選手が本番の雰囲気に飲まれないように精神力を鍛える、なんて話を良く聞きますが、ああいった努力というのが演奏家に関しても必要なのかもしれません。マインドトレーニングと言われるようなことです。
しかし、その前にまず、アマチュアならではの本番での気分の高揚を賞賛するような態度は、やはり多少は慎むべきじゃないかなあ、と私は思います。



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