練習と本番の違い(03/1/13)


合唱というのは演奏家にとって本当に繊細な表現手段だと思います。
例えば、いつもと音響が違う場所で演奏したりすると、テンポや音量が変わってしまったり、場合によっては演奏が思わぬ破綻を引き起こしたりすることもあります。心当たりのある人も多いのではないでしょうか。
もちろん、プロならこういったことに対しては経験が豊富であり、どんな会場であろうとその影響度を最低限に留める能力は高いことでしょう。しかし、アマチュアだと、本番の数より練習のほうが普通は多いので、いつもの練習室の音像の記憶のほうが圧倒的に強く、本番で戸惑う可能性は高まります。また合唱祭、コンクールなど事実上ステージリハが出来ない環境も非常に多いのです。

この問題は簡単に言ってしまえば、歌っている人の耳にどれだけの音が返ってくるか、ということに尽きるでしょう。
いつも聞こえてくる他パートの音、あるいは自分の周りの同じパートの人の声がよく聞こえなくなったら、それは演奏に微妙な影響を与えます。
まず思いつくのは、リズム、ピッチのずれ。聞こえなくなれば、各パートの悪いクセが少しずつ出てきます。走りがちなパート、引きずりがちなパート、上ずり気味なパート、落ち気味なパート、せっかくこれまでの練習で揃えてきても、本番の思わぬ環境の違いでまたいつものクセが出てしまう可能性があります。
聞こえなくなったときに無視できないのが、気弱なアンサンブル態度。よく言われる金魚のフン唱法。心配になると、自分の周りの人が歌いださないとちゃんと歌えない人(場所)、というのがどうしても出てきます。まあ、こういう人の比率は合唱団のレベルによってまちまちですが、特に歌詞が多かったり、テンポが速かったりする場合に、音楽が乱れる原因になったりします。

練習場より本番の会場が十分広い場合はたいてい聞こえにくくなりますが、少し狭めで良く響く場所では、逆にいつもより良く聞こえるということもあります。これならば問題ないかというと、そうでもありません。
よく聞こえる場所では、恐らくいつも歌っている声より大きな声を出してしまいます。自分の周りの人の声が良く聞こえるようになると、無意識のうちにいつもの音像とレベルを合わせるために、自分の音量を上げてしまうのです。音量を上げると、音色やピッチに微妙に影響が出てきます。

このような問題は、合唱団の人数が例えば20人以下くらいになると顕著です。
恐らく、普通のアマチュアなら、楽器と比べると人の声の音量は小さいはずです。楽器の音が十分大きければ、多少の音響の違いがあっても舞台上なら直接音で十分聞こえます(と思います)。しかし、声の場合、音量が小さく、指向性が高いので、各パートの直接音で聞こえる量が少なくなってきます。場合によっては、会場からの反射音ではじめて聞こえるなんてことも良くあります。

いちおう、合唱の基本は生の演奏ですから、PAのようなモニターを期待するわけにもいきませんが、時々合唱用のモニターシステムとかあったらいいなあ、なんて考えてしまいます。例えば、会場のマイクで拾った音を適正に処理して、各演奏者の耳元で鳴らしてあげるとか・・・。
いずれにしても、まずは、このような問題があるということを各団員がしっかり認識することが大事です。何も考えずに舞台に立って、「聞こえない〜、どうしよう〜」ではもう遅すぎます。ある程度の心構えがあれば、かなり事態は改善されるような気がします。



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