戦後の混乱期...(99/5/16)


朝日新聞の日曜版では100人の20世紀と題して、今世紀を代表する人物を選んで毎週特集しています。
今日の人物は本田宗一郎。
技術にかける情熱とアイデアで、ホンダを世界企業に導いたその力は、日本の企業家の一つの鏡でありましょう。また、氏の活躍自体が戦後日本の成長とオーバーラップし、高度経済成長の一つのシンボルにもなっていると思います。
1989には「自動車の殿堂」(AHF)に日本人として初めて仲間入りしています。自動車産業の本場、アメリカにおいてさえ、その名前を轟かせているのです。
この特集の終りに、長男の博敏さんの談話が載っています。
「焼け野原と混乱の時代に能力を発揮するタイプの人間だったと思う。今の学歴社会、個性を認めない社会では不良でしかなかったかもしれない...」

私にはこの言葉が何か大切なことを示しているように思えてなりません。
確かに日本を代表するビッグネームというのはいずれも戦後の混乱期を自力で切り開いてきた人たちばかりです。技術関係でホンダ以外なら例えばソニー。無論、その他にも戦後裸一貫で始めて、大きくなった会社はたくさんあることでしょう。
音楽家では武満徹。武満は世界的に認められたほぼ初めての日本人作曲家だと思いますが、彼は音楽大学を出たわけでなく、ピアノの音が鳴っているのを聞くと、「お願いです、弾かせてください」とその家の人に頼みにいくような青年時代を送っていたといいます。小さい頃からピアノを持っている今の音大生とは育った環境が雲泥の差なのです。
考えてみると戦後の混乱期とは、その人がなろうと思えば何にでもなれた、そういった意志を持った人が成功することが出来た、日本でも希有な時代だったのではないか、と私は思ったのです。
ところが時代が進み、様々な体制が固まってくると、どんな仕事でもそれを成就するための必要なレールが敷かれてしまい、ステレオタイプな人間を生産する教育システムが構築されてしまうのです。政治家然り、官僚然り、教師然り、そして音楽家も然り。そして、そのレールを歩まない者には、その道を歩むことさえ許されないのです。
今、日本がダイナミックな変化を望まれているのは、まさにそういった硬直したシステムを破壊することなのですが、そのシステム上で既得権益を握っている人がいる限りは、なかなか良い方向に変わらないような気もしています。


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