コンピュータ浄書(02/7/6)


既に何回か触れていますが、楽譜を書く人にとってコンピュータ浄書はまさに福音でした。
はっきり言って、演奏に使うために人に配る楽譜を書くのは大変骨が折れる作業です。楽譜を書くというのは、もちろん非常にクリエイティブな作業なわけですが、実際に作曲や編曲で頭を使って音符を並べる作業と、きれいに楽譜を書く作業の比率は、手書きの場合圧倒的に後者のほうが大きかったと思います。出来ることならなるべくクリエイティブな作業を増やしたいと思う人にとって、手書き浄書はおそらく非常に苦痛であるに違いありません。
もちろんこれはその人の性格にもよるでしょう。私の場合は、クリエイティブな作業を非常に好み、むしろ几帳面に物事を整理したり美しく清書したりという作業はあまり好きではないようです。というか、手早く結果を得たい、という気持ちがあるからなのでしょう(^^;)。楽譜を書く人の中には、非常に几帳面に手書きで書くことを好む人がいるのも事実。正直、頭が下がる思いですが、私には真似の出来ないことです。

そういう私が、創作のほとんど最初の段階からコンピュータ浄書を使い始めたのは当然のことでした。
私の浄書ソフト歴をここで紹介しましょう。
私が最初に買ったパソコンが Mac Plus で(ふ、古い!)、このときはFinaleを使いました。大きな声では言えませんが、このFinaleは自分で買ってません。何しろ、操作が難しくてマニュアルも無いことでかなり苦労しました。それで、やはりきちんとソフトを買おうと思い、同じくMac用の Composer's Mosaic という Mark of The Unicorn(MOTU)社製のソフトを購入。MOTU社は Performer というシーケンスソフトで有名ですが、Performer も自分で買ったので、同じ会社のものが良いと思いこのソフトにしたのです。
私的にはこのソフトはかなり気に入って、長い間使いました。去年まで使っていたのでおそらく10年くらいは利用していたでしょう。Mosaicは Performer に操作感が近く、そのロジカルな考え方を理解すると、作業が非常にスムースに行えるのです。使い勝手も非常に良かった。ただMOTU社自体がこのソフトを完全に投げ出し、ある時期から全くバージョンアップしなくなったこと、メイン環境をMacからWindowsに変えたことで、ついに捨てざるを得なくなりました。
結局、CUBASE VST導入(01/8/11) で書いたように、現在浄書ソフトはシーケンサと一体化したCubase VSTに落ち着いています。残念ながらこのソフトはとてつもなくややこしく、まだ使い切っているとは言い難いのですが、それでもすでに何作品か浄書して頑張って使っているところ。

次に私自身の作曲の過程で、どのようにコンピュータを使っているのか紹介しましょう。
私の場合、まず必ず五線紙上に手書きで行います。作曲時点での楽譜の書き込みにまでコンピュータを使うと、かなり思考が途切れてしまうような気がするからです。しかし、私の手書き譜は最終的にコンピュータ浄書をすることを念頭においていますから、下書きもいいところで、おそらく人に見せられるものではありません。大きなバツ印とか、楽譜の位置が飛び飛びで矢印がたくさん書いてあったりとか、頭の中でわかっているので調号やいろんな記号が省略されています。
ある程度のフレーズが作曲し終わると(だいたい8〜16小節くらい)、そのたびにシーケンスソフトに打ち込みます。そこで、何度も聞きなおして音を推敲します。これを繰り返しながら曲を作り終えると、その後に浄書作業を行います。実はMosaic時代、うまくシーケンスデータを浄書ソフトに流す手段が無かったので(もちろん入力できたが、その後の修正作業が恐ろしく大変)、作曲終了時点でゼロから楽譜データを打ち込んでいました。しかし、Cubaseにして、一つのソフトでシーケンスと楽譜を扱えるようになったので、今では曲が完成すると、その時点で音符の入力が済んでいる状態になり、あとは記号を付加し、レイアウトを整える作業だけになりました。これはCubaseに変えて最も良くなったことです。
そういうわけで、私の浄書作業は実はシーケンスデータ作りと分かち難く結びついています。実はそれがために定番ソフトのFinaleを選んでいません。Finaleではシーケンスデータ作りの機能はかなり弱いと推測するからです。
Cubaseでは、シーケンスデータを編集して音楽をよりよくする作業と、その音符から楽譜を作り出す作業をなるべく両立させるように工夫されています。例えば、スタカートはシーケンスデータ上では音符の長さを短くしますが、楽譜上で8分音符にスタカートにしたいのに、16分音符でしか表示できないのでは二つの要求を満たせません。Cubaseでは、「表示クオンタイズ」という概念があり、シーケンスデータ上のアーティキュレーションの工夫と楽譜の表示の仕方が、一つのデータでありながら両立できるようにしてあるのです。しかし、それが原因で非常に使いずらくなっているのも事実です。

どんなソフトでも得手不得手はあります。私のようにMIDIシーケンサとしても充実した機能が欲しければ、楽譜表示機能つきシーケンサを使うのがベターでしょう。最近の楽譜表示機能はかなりレベルも高くなっていて、商用でないのなら十分通用すると思っています。ただし、商用となると、今ではFinaleに勝てるものは無いかもしれません。イギリスのソフトでSibeliusというのも海外では人気があるようですが、日本では入手しにくいようです(John Rutterが宣伝していて驚いた)。



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