ポピュラーっぽいは誉め言葉(02/4/13)


いろいろな音楽が巷に溢れていて、音楽の楽しみも細分化されています。
一人の音楽のプロがいくら頑張っても、全ての音楽ジャンルに精通することはやはり不可能なことです。クラシックをやってきた人は、クラシックという世界から離れた活動をするのは難しいだろうし、ましてやアイドル歌手がクラシックに転向なんて聞いたことはありません(どこかのヨーロッパの古楽アンサンブルのメンバーの一人が元ロック歌手だったという話は聞いたことがあるけど)。もちろん技術的な問題も大きいのは確かですが、それぞれのジャンルが持っているある種の美学みたいなものを乗り越えることはやはり大変だと思うのです。私が見るかぎり、ポップスだってお作法とか様式美みたいなものを備えていて(曲の形式とか、使用楽器とか、コンサートでの楽しみ方とか^^;)、やはり何でもありとは言い難いと思います。

クリエーターならば、常に新しいものを生み出さなければいけません。もちろん、たいていはそれぞれのジャンルの様式美の範囲内で新しいものが生み出されますが、あるところでジャンルの様式美そのものを覆すブレークスルーが起きるものです。クラシックでは過度な打楽器の使用は管弦楽法などで慎むように言われますが、絶えず打楽器を鳴らすことでジャズからロックに向かう流れが起きました。ギター演奏を電気で拡声しているとき、ボリュームを上げて規定値以上の入力信号を流したら音が歪んでしまいます。普通は音が歪むことは良くないことですが、今ではそれがそのままディストーションサウンドとして、エレキギターの重要なエフェクトの一つになっています。
大きな流れから見ればジャンルは流動化します。新しい様式美も生まれます。そして音楽そのものも生き物のようにどんどん変わっていきます。
ポップスが世界の音楽の主流といってもよい今の時代、様々な伝統的なジャンルがポピュラー音楽の影響を受けているのは当たり前のことです。私はそういう流れは全然否定しないし、そうなって当然とも思っています。だから、クラシック音楽ももっともっとポピュラー音楽の影響を受けて変わるべきですし、そういうスタンスで現われた音楽は私は積極的に評価したいと思うのです。もちろん、音楽そのものがよいものでなければ意味がありませんが、それは自分のセンスで感じるしかありません。ただ音楽の良さを感じる前に、雰囲気がポピュラーっぽいというだけで低く評価する人もいますが、それはジャンルの持つ様式美から離れることの出来ない保守的な態度に思えるのです。

これだけ書くといろいろ反対意見もありそうです。
常に新しいこととかブレークスルーとか言っておきながら、一番流行っているものに流されるだけじゃないかという突っ込みもあるかと思います。こういう議論を抽象的に捉えることは非常に難しいのですが、私自身はクラシックのポピュラー化を期待しているわけではなくて、クラシックとポピュラーの間から新しいジャンルの芽が生まれることがあり得るのではないかと思っているわけです。

うーん、どう書いても観念的な議論から離れないので、とりあえずこんな風に音楽が変わっていったらいいなという私の考えを具体的に書いておきましょう。
若者中心の文化であり、ファッション化してしまったポップスに飽き足らない人たちがいます。また一方、保守的で伝統芸能の域に入りかけているクラシックを危惧する人たちがいます。こういった流れが大人も楽しめる新しい音楽の方向性を模索し始めます。その過程で、クラシック音楽でも非常にポピュラー風のテイストを持った音楽が現われてくることを期待するのです。だから、私にとってポピュラーっぽいクラシック音楽というのは誉め言葉なのです。



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