音楽の怪しいリクツ ハモリ篇(02/2/9)


もう少しピッチ関連の話を考察してみましょう。
純正律でなく純正のハーモニーで、というのが前回の内容でしたが、では純正のハーモニーとは、という疑問が浮かびます。結論から先に言ってしまえば、その理屈は結局、純正律の考えと同じということになります。つまり、長三度は和音の根音に対して386セントの関係で、完全五度は根音に対して702セントの関係で、ということです。もちろん、全ての音のピッチを最初から固定してしまう音律の話とごちゃごちゃにしてはいけません。流れ続ける音楽の中で、この微調整を随時行っていくのです。ですから、楽譜上は同じ音でも、ハモらせようと思ったら、違うピッチを出す場合もあるかもしれません。あくまで理屈上厳密に言うならば、ということですが。

では、この386セントとか702セントという値はいったい何なのでしょうか。
私が高校生の頃疑問に思っていたことがありました。音のピッチは上下方向に連続しているはずなのに、なぜオクターブという周期性があるのか、ということです。こんなことを疑問に思うのは理系ゆえでありましたが、結論はしごく単純なものでした。ある後輩のギター弾きに教えてもらったと記憶していますが、彼いわく、ギターで振動する弦の長さが1/2になればオクターブ上の音になるから、周波数が2倍になったらオクターブと感じる、ということでした。
パッと考えると、周波数と音程の関係は数学的に比例していると思われるわけですが、この比例とは実は等比の関係だったわけです。つまり、440Hzの音の一オクターブ上は880Hz、さらにそのオクターブ上の音は1760Hz、というように倍々になっていくのです。これは、二つの音の周波数比が1:2のとき、二つの音はオクターブの関係にあると言い換えることが出来ます。
実は、このように二つの音の比例関係が割と単純な場合に、音は良くハモります。完全五度の場合、二つの音の比は2:3に、また長三度の場合は4:5、ついでに完全四度の場合は3:4となります。上記の702セントとは2:3の比例関係をセントで表したものです。同様に386セントとは4:5の比例関係をセントで表したものです。なんだか中途半端な数字ですが、これはセントという単位の数学的な定義のせいですから仕方がありません。

随分数字を並べてしまいましたが、知っている人には当たり前の内容だったかもしれません。
では、これらの法則をどのように実際の演奏の場で実践していくか、というのが次の問題になります。ここで徹底的に微小なピッチ差を物理的に規定して演奏していこう、などと考えるのは正直言って机上の空論になりがちです。私がここで言いたいのは、「高めに」「低めに」などの指示は、永遠に微妙な調整を続ける作業の繰り返しになるばかりではないか、ということなのです。その場合ピッチに過度にこだわるあまり、音楽の自然な流れを止めてしまうことになりかねません。
結局はおのおのの演奏家が、耳を鍛えてハモる音程に自ら持っていく、ということを実践していくしかないと思います。もちろん、その過程で平均律での長三度がハモる音程より少し高めになっている、というくらいの知識は多少の助けになるでしょうが、ハモる音程が体感できない人にそのことをいくら言っても、恐らくは徒労に終わってしまうでしょう。
そういう人たちには、できれば、恐ろしくピッチの精度の高い少人数アンサンブルのスーパーグループの演奏会などに足繁く通うなどして、いい音楽をたくさん聴く機会を持って欲しいものです。


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