彼の何がすごいのか?(01/4/28)


彼とは誰かというと、時の人、小泉純一郎氏であります。
政治ネタで恐縮ですが、今週一週間のニュースは実に楽しませてもらいました。近年にない政変と呼べる事態だったんじゃないかな、と思います。それに何しろ、私にとってこの小泉純一郎というキャラクターは実に興味深いのです。

一般に思われている小泉氏の印象は、自分の理念に一途な人、改革論者、集団の論理に組しない一匹狼、といったところでしょうか。自民党の古い体質に辟易している人たちにとっては、小泉氏は清新で純粋(まさに名前のとおり)なイメージがあるに違いありません。
しかしよくよく観察すると、私には、巧妙なパフォーマンス能力を持ち、政治的駆け引きに長けた最上級な政治家ではないか、と思えるのです。
そもそも、彼の代名詞でもあった「郵政三事業の民営化」というのは、その政治的手法をうまく表しているような気がします。何かを改革するときは、どうしても改革の全体的なイメージが先行します。だから、実際にどのように改革をするか話し合う段になって、総論賛成各論反対、玉虫色の決着、といった事態になってしまいます。そういう意味で、政治改革とか行政改革とか構造改革とか規制緩和とかいう言葉は、誰でも使えるけど全て中途半端におちいる可能性を秘めているわけです。しかし「郵政三事業の民営化」とは言わばいきなり「各論」であって、その言葉の裏には大きな改革を行うという前提があり、大改革を実行するための一つの象徴的な意味を表すことになります。つまりこの言葉が、自分の改革に対する意志が、自民党という集団の中で埋没しないための戦略的なキャッチフレーズだと私には思えるのです。結果的に周囲の賛成反対が明確になり、自分の敵味方がはっきり区別できます。また、自分が権力を得たときの行動を公約という形で正当化できるのです。

彼の政治的駆け引きは、いくつかの場面で感じられます。
例えば、自分の政治的主張をアピールするために閣僚を辞任する、などというのは実にうまいパフォーマンスの一例です。普通はしがみついてでも欲しいのが大臣のポストなわけで、それを逆手に取った印象的な行動だと周囲の目には映ります。
実際、これまで自民党首脳陣に敵対した改革論者はどういった行動を取ってきたか考えてみてください。たいていは自民党の離党、及び新党の結成というパターンです。河野洋平しかり、小沢一郎しかり。自らの政治的主張をあくまで貫こうとすれば離党しかありません。離党もせずに中途半端に反対すると加藤氏みたいな恥ずかしい結果を招きます。
しかし、結果的に離党した人たちは天下を取ることが出来ませんでした。小沢氏はかなりいいところまでいきましたが、自らの政治力を過信していたきらいがあります。
小泉氏はあれだけ歯切れ良く物を言っておきながら、離党騒ぎは起こしていませんし、こともあろうかあの森政権を必死に支えてさえいました。森政権を支えたのは、政治家の内向きな義理・人情の感覚に起因しており、そこには自らが孤立してしまうような向こう見ずな純粋さは決して見えてきません。
しかしその一方で、彼は日本の政治家の中では、格別にマスコミ受けするパフォーマンス能力を持っています。日本の政治家で最悪なのは、記者を馬鹿にしたり怒ったりするような偉そうな態度ですが、そういった感じは全然ありません。それでいて、はっきり断言するときの語調の強さ、明確さ、言葉の断定力にはその内容さえ超えて人を納得させるようなパワーを感じさせます。表情も緩みがなく、鉄面皮な感じで、人間的な弱さを決して見せません。自らがどう見えるか、言ったことがどう感じられるか、かなり研究しているのではないか、そんな気さえします。

巷では橋本派の巻き返し、あるいは改革が中途半端に終わり、短命な政権になるのではないかと見る向きもあるようですが、個人的にはかなり長期政権になるような気がしています。
今はたくさんの反発がありますが、権力が強固になれば多くの人が権力側になびくでしょう。派閥の均衡で内閣を作っていた頃は総理大臣よりも位の高い大臣がいたりしたこともままありましたが、今回は小泉氏が直接任命しているわけで、各閣僚の総理に対する忠誠心は非常に高いものとなるはずです。そもそも、今回は小泉氏への権力集中化が許される土壌があるので、もしこれで参院選で大勝すれば内閣だけでなく自民党全体を掌握することも可能だと思います。そしてこれこそ、自説を曲げずしかも離党せずに、完全な権力を手に入れようとする小泉氏のしたたかな戦略なのだ、と考えるのは穿った見かたでしょうか。
(なお、以上の文は一見小泉氏を批判しているようですが、実は大いに期待していることを最後に言っておきます。)


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